
少し前のことになりますが、日本テレビ系の人気情報番組『news every.』の人気コーナー「なるほどッ!」で、高齢ドライバーの「免許返納」をテーマにした特集が放送されていました。
番組では、75歳以上の高齢ドライバーによる死亡事故が2024年に410件、2025年に397件発生しており、「1日に1件以上起きている」という切迫した現状が紹介されていました。絶対数ではピンとこない数字も、「1日1件以上」と言われると事の重大さが伝わってきます。一方で、運転免許の自主返納件数は、2019年の35万件から、2025年には26万件へ。その数は減少傾向にあるとのことでした。
番組内では「実家の親の運転に不安を感じる」「免許を返納したら生活に支障が出る」といった、まさに多くの家族が抱えるリアルな葛藤がインタビュー形式で取り上げられていました。しかし、漠然とした不安を語るだけでは、問題の解決にはつながりません。この避けて通れない「高齢ドライバー問題」に対し、私たちはどう向き合うべきなのでしょうか。
二者択一を超えた「第三の選択肢」と対話のアプローチ
番組では専門家のアドバイスとして、「運転を正常にできるうちから話し合うこと。」「家族が同乗して信号の見落としや危険予測の低下などのサインを確認すること。」これらの対応が重要だと説明されていました。
しかし、実際に話し合おうとすると、そうは簡単にはいかないようです。番組で紹介されたアンケート調査(ジョイカルジャパン調べ:地方在住で70歳以上の親がいる110人への調査)によると、親と免許返納の話が「できていない」と答えた人は70.9%にものぼります。その最大の理由は「親の生活が不便になってしまうから(約50%)」とのことでした。
「返納させるか、させないか」という二者択一の議論。これだけでは、親は「俺は大丈夫だ」と主張し、家族は「生活ができなくなると心配だから言い出しにくい」と及び腰になり、結局は問題の先送り(モラトリアム)を生むだけです。ここでよく出てくるのが、「バランス論」という言葉。聞こえのいい言葉ですが、場合によっては、何も考えていない。答えがないから、とりあえずお茶を濁したいときに使われる都合のいい言葉の一つだと思っています。ここで思考停止しては何も問題は解決しません。右か左か、というバランスを考える場合において、敢えて上下や前後といった別の次元で問題を解決する。そんな「第三の選択肢」の発想が必要なのではないでしょうか。
つまり、家族がただ頭ごなしに「危険だからやめなさい」「免許を返納しなさい」と命令するのではありません。安全に運転を続けられれば、免許返納は必要ない。そのためには、安全に運転するために果たすべき義務があります。その内容を高齢ドライバーである親と家族が一緒に考える。そして、それらを実行し、家族はそれを見守る。これが、解決策の一つになる、と私は思っています。
私たちが実践すべき「自己開示」のコミュニケーション
では、どのように親と対話を進めればよいのでしょうか。
番組の中で専門家は「運転の危険性を大げさに伝えたり、文句を言うようなことは避けるべき」と説明していました。そして、「最近の運転で気になったことは?」と運転に関する考え方等について積極的に話し合うことを推奨しています。これには私も同感ですが、さらに踏み込んで考える必要があります。
よく「相手の気持ちに立つ」と言われますが、他人の立場や本当の気持ちに完全になり代わることは非常に困難です。安易に「あなたの気持ちが分かるよ」と言えば、かえって「私の何が分かるんだ」と反発を招き、喧嘩に発展することもあります。だからこそ大切なのは、「少しでもわかりたいと努力し、寄り添おうとする姿勢」そのものです。
親といえども、その本音はわからないことも多い。それならば、その本音を引き出すための道具(3Dカードなどの対話ツールを活用すること)。これも有効だと考えています。
客観的な意見が大切、とのコメントも番組では紹介されていました。しかし、一般論(「信号は守るべきだ」など)をぶつけても、自信家が多い高齢ドライバーの心には響きません。そんなときに効果的なのが、家族の側からの「自己開示」ではないでしょうか。「自分も将来は高齢者になる」「自分だったらこうされたい」ということを高齢ドライバーである親にぶつけてみる。そして、「俺も実際にこういう体験をしてみて、こんなことがわかったよ。」という情報を積極的に話してみる。そのような、自分の体験談や笑える失敗談を親に積極的に共有すること。このようなやり方も有効なのではないでしょうか。
子どもが自分の立場や体験、弱みを開示しながら話題を振ることで、親も少し肩の力を抜き、自分の本音や困りごとを開示してくれるようになるのではないでしょうか。ゲーム理論のように全体最適を見据え、譲るところは譲る。お互いの現状や衰えをユーモアや対話を通じて自覚し合うこと。それこそが、対立を生まずに納得のいく着地点を見つけるための王道ではないでしょうか。
問題を「自分事」と考えることの意義
「免許返納か、運転継続か」という問い。その背後には、常に「移動の自由・生活の尊厳」と「安全の維持・社会的責任」。このような重いテーマが横たわっています。
トヨタコニックプロが発表した買い物特化の無料送迎サービスの展開など、社会全体でもインフラや支援の模索が進んでいます。少しでもこの問題の解決をしなけらばならない、という社会の動きの一つです。しかし、最後に親の背中を押し、安心できる老後の方向性を決めるのは、やはり身近な家族です。
「そのうち自動運転が何とかしてくれるだろう」と過度に期待を寄せるのではなく、今、私たち家族にできること。それは、親の運転を頭ごなしに否定することではありません。家族も将来直面する「自分事」として考え、身体的変化や安全と向き合う。そして、自ら考えたことや体験したことをオープンに語り合いながら、共に新しい生き方をデザインしていくことが重要です。
親と子が互いの立場を思いやり、家族としての最適解を見つけるための第一歩。これを、みなさんと一緒に考えていきましょう。
