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運転技能検査を考える:高齢ドライバーにとって「違反」が持つ本当の意味と自らを律するマインド

前回のブログで、高齢ドライバーやその家族にとって、「事故」の心配はもちろんのこと、その手前にある「交通違反」。をもっと深刻に捉える必要があるという提言をさせていただきました。

私たちが違反を避けたいと思う理由は、反則金の支払いや違反点数の減点だけではありません。長年安全に運転を続けてきた証である「ゴールド免許」を失うこと。これは、高齢ドライバーにとって誇りを奪われるような心境をもたらします。さらに、家族の視点から見れば、高齢ドライバーが軽微な違反を繰り返す姿は「大事故の予兆」に映ります。本当の重大事故が起きる前に「一刻も早く免許を返納してほしい」と思う強い動機。あるいは口実を与えてしまうことにもなります。

どんな世代のドライバーにとっても違反や事故は避けたいものです。しかし、高齢ドライバーが「違反行為」を犯すこと。これは、他の世代とはまったく異なる重大なリスクや意味合いを孕んでいます。

それは、75歳以上の高齢ドライバーに課せられる「免許更新制度」。この仕組みには、「運転技能検査」という極めて重要なハードルが絡んでいるのです。

運転技能検査という「合否のフィルター」

現在の免許更新制度を簡単に振り返ってみましょう。75歳以上のドラバーは、免許更新の仕組みは過去3年間の「違反の有無」。これによって大きく2つに分かれます。

もし過去3年間に一定の違反歴がなければ、免許更新時に受けるのは「認知機能検査」です。そこで認知症の恐れがないと判断されれば、実車指導や運転適性検査を含む「高齢者講習」を受けてスムーズに免許が更新されます。このプロセスに「合否」という概念はありません。実車指導で指摘事項があっても、それだけで免許が取り上げられることはありません。

しかし、過去3年間に一定の違反歴がある場合は話が全く違います。更新の前に「運転技能検査」を受けなければならないのです。 この検査では、指示速度走行、一時停止、右折・左折、信号通過、段差乗り上げなどの項目が厳しくチェックされ、明確に「合否」のフィルターが存在します。つまり、不合格という可能性があり、更新期間終了までに合格できなければ、本人がどれほど運転を続けたいと強く希望しても、免許は更新できません。つまり、半ば強制的に運転をやめさせられてしまうことを意味します。

警察庁のデータによると、2025年の実績では対象者16万5756人のうち、94%にあたる15万6513人が受験し、そのうち約93%が合格しています。この数字だけを見れば、「なんだ、ほとんどの人が受かっているではないか」。と安心されるかもしれません。

しかし、ここから雲行きが怪しくなります。警察庁の追跡調査によって、「技能検査に合格した人」の交通事故件数。これは、過去3年間無違反だった高齢ドライバーに比べて2.3倍から4.5倍も高い。この事実が判明したと報じられています。

この現状を受け、合格率が高すぎて事故抑止として不十分であるという判断から、警察庁の有識者検討会が現在基準の厳格化を検討しています。実証実験では、基準を厳格化した場合の合格率は約81.3~81.6%にまで下がるとの結果が出ています。このように制度の見直しが着々と進められています。

この動きは、高齢ドライバーの適性を厳しく見極め、不適格な人を排除することで事故を少しでも減らそうという行政の狙いに基づいています。当事者である高齢ドライバーからすれば「高齢者いじめではないか」と映るかもしれません。しかし、事故を防ぐための安全策として国がドライに判断を下す。その背景も理解できなくはありません。

もし合格基準が厳格化されたら? 訪れる現実の壁

ここで一つの仮説を立ててみましょう。 もし、運転技能検査の合格基準が現在の100点満点中「70点以上」。ここから例えば「80点以上」に引き上げられたとします。(それ以外の制度的な変更がないものと仮定します。)

そうなれば、「本番に備えて自動車学校で事前にしっかり訓練を受けよう」と考える人が増えるかもしれません。しかし現実はどうでしょうか。先日の報道でも伝えられている通り、若者の免許離れなどの影響で自動車学校の経営は苦しく、それに合わせて指導体制や人員も縮小されています。そのため、「高齢者が殺到しても、十分な受け入れ枠や余裕があるか」と言えば、決して楽観視できません。

運良く予約が取れて練習・受験できればまだ良いですが、予約が取れず、期限内に合格できなければ、免許失効という現実が突きつけられます。プレッシャーに弱い人にとって、これほど過酷な状況はありません。

だからこそ、結論は一つです。制度変更を批判するのではなく、制度に合わせて行動を起こすこと。そして、目を向けるべきは 「72歳以降は、絶対に交通違反を起こさないこと」。これに尽きます。

過去3年間に違反さえしなければ、運転技能検査というフィルターにかかることはなく、合否のない従来の講習と認知機能検査で更新が可能です。裏を返せば、違反をすることは、自ら進んであの厳しい「運転技能検査というリング」に上がること。そして、免許剥奪というリスクにあえて直面する行為に等しいと言っても過言ではないのです。

違反を防ぐもの、それは「マインド」である

では、高齢ドライバーに多いとされる違反にはどのようなものがあるでしょうか。私が警視庁のサイトを確認したところでは、高齢ドライバーの違反で一番多いのが、「安全不確認(38.6%)」。続いて「交差点安全進行(18.3%)」「前方不注意(11.3%)」、以下、ハンドル・ブレーキ操作不適、動静不注視、歩行者妨害、信号無視と続いています。これらを細かく見ると、安全不確認や前方不注意、ハンドル・ブレーキ操作不適、動静不注視は「安全運転義務違反」に。交差点安全進行なら「交差点安全進行義務違反」に。歩行者妨害なら「横断歩行者等妨害等違反」に。信号無視なら信号無視(赤色等)または信号無視(点滅)が適用される構造になっています。

「事故」を未然に防ぐためのシステム。これは、自動車の安全技術の進化により、衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱警報など、質量ともに充実しています。しかし「違反」そのものを直接防いでくれる市販のデバイスやシステム。これに目を向けてみると、レーダー探知機くらいしか思い当たりません。事故防止対策に比べて非常に貧弱なのが実情です。

つまり、違反行為を防ぐために、道具や技術に頼ること。これは現状では難しいと言わざるをえません。そうなると、違反行為を防ぐ鍵は一体どこにあるのでしょうか。 それは間違いなく「マインド」に行き着きます。

高齢ドライバーが犯してしまう違反の多くは、ほんの一瞬の気の緩み、安易な判断、あるいは「これくらいなら大丈夫だろう」という近道行動の心理が起因しています。これらはすべてマインドに端を発する問題です。したがって、間違ったマインドを正す。それには、より強固なマインドで上書きするしかありません。

そのときに私たちを正しい方向へ導いてくれる唯一の羅針盤、それが「運転の理想像」です。

「運転の理想像」が違反も事故も防ぐ

事故が大きな「被害」を伴うものであるのに対し、違反は直接的な被害が見えにくい分、軽視されがちです。しかし前述したように、高齢ドライバーにとっての違反は「運転技能検査への直行切符」です。結果として自分の運転人生を奪われる引き金になりかねません。

「自分は、こんな安全な運転がしたい」 。そのような「運転の理想像」を心に抱き、その達成を目指すとき。そこに至るまでの道を阻害するものは事故だけではありません。「うっかり違反」もまた、自分の理想の運転像への道を阻む最大の敵となります。

「自分の行く手を阻むような安易な違反行為は許さない」。 「違反しそうになったら、自分の理想像に立ち返って行動を律する」。

こうした誇りと強い意志を持てるようになると、標識の確認を怠らなくなったり、交差点での安全確認や一時停止が自然とできるようになる。つまり意識変容と行動変容につながる、と考えています。家族に言われて嫌々実施するのではない。自分自身が自分の運転の怠慢を許さない。その高いマインドセット。これこそが、日々の細かな違反行為を水際で防ぐ最大のブレーキとなります。

これはある種の「フェーズフリー」の考え方にも通じます。普段から自分の運転の理想像を持ち、違反を防ぐための丁寧な運転を心がけること。これは、日々の安全性を高めるだけでありません。近い将来、家族との間で「免許返納議論勃発」や厳しい運転技能検査に直面するという非常事態。それらに備えるための最善の策となるのです。

おわりに

コストやリスクを天秤にかけたとき、最も恐れるべきこと。それは、事故の影に隠れて見落とされがちな「違反行為」を軽視し続けることです。

もし、ご自身の中にまだ明確な「運転の理想像」が見出せていない。それなら、私たちが開発した「3Dカード」のようなツールを活用する。そして、自分自身の内なる望みや安全への動機を発見してみる。それも一つの有効なアプローチだと思います。

未来の不安に怯えるのではなく、自らの理想の運転像を描き、自らの行動を律する。その主体的・前向きな意識と行動の変容。それこそが、法制度の変更を乗り切り、高齢ドライバーが運転を長く、誇り高く走り続ける。そのための確かな道筋となるはずです。

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