
日々の暮らしの中で、私たちは様々な目標を立てて生きています。仕事での目標、趣味の目標、そして健康の目標など、それらは私たちに活力を与え、現状をより良いものへと変える原動力となります。運転もまた例外ではありません。「安全運転を続けたい」「自家用車で北海道を一周してみたい」といった目標は、漠然とハンドルを握るのではなく、意識的に行動し、自身の運転を見つめ直すきっかけを与えてくれると思います。つまり、「目標を持つ」ことは、それ自体が非常に価値のあることだと考えます。
でも、「もし目標を達成したら、その次はどうなるんだろう?」そんな心配を抱く人もいるかもしれません。目標を達成した途端、「燃え尽き症候群」のようにモチベーションを失ってしまわないか。目標を立てたはいいけれど、それがいつかは「終点」になってしまわないか。今回は、この疑問に、日ごろから厳しい目標に向き合ってきたアスリートたちの例からヒントを探ります。そして、運転における目標設定のあり方を考えていきたいと思います。
目標達成したその先はどうする?アスリートの二つの道
目標を一度達成した後の道筋は、アスリートにとっても非常に重要なテーマです。オリンピックでの金メダル獲得や、大相撲での横綱昇進は、その競技におけるまさに「究極の目標」と言えます。この目標を達成した後、アスリートたちのキャリアは大きく二つの道に分かれる。そう考えています。
1. 新たな目標を設定し、挑戦を続ける「進化の道」
女子レスリング界のレジェンド、吉田沙保里さんは、一度頂点を極めても、そこで歩みを止めることなく、さらなる高みを目指し続けたアスリートの一人です。彼女は、オリンピックで3大会連続の金メダル。世界選手権では前人未踏の13連覇という偉業を成し遂げました。「霊長類最強女子」と称された彼女が、なぜこれほど長く勝ち続けることができたのでしょうか。
吉田さんは金メダル獲得後も、「もっと強くなりたい」「新しい技を習得したい」といった自己成長への飽くなき探求心を持ち続けていました。インタビューなどでも「練習は嘘をつかない」と語るように、日々の地道な努力を怠らず、常に自身の限界を突破しようと試みていたのです。単に「金メダルを取る」という結果だけでなく、「最高の自分」を追求する過程そのものに喜びとモチベーションを見出していたと言えるでしょう。彼女にとって、金メダルは「終点」ではなく、「次のスタート地点」。そして、「さらなる進化への通過点」だったのです。
また、大相撲で前人未踏の45回優勝を記録した元横綱の白鵬関も同様です。彼は横綱昇進後も、歴代最多優勝記録や通算勝ち星記録の更新など、数々の金字塔を打ち立て続けました。白鵬関もまた、単に「勝つ」ことだけでなく、「相撲道のさらなる探求」や「横綱としての品格」といった、より精神的で内面的な高みを目指していました。怪我に苦しみながらも土俵に上がり続けた理由。それは、「もっとできることがある」という飽くなき挑戦心。それと、自ら課した「次なる目標」があったからに他なりません。
彼らに共通するのは、目標を達成しても決して満足せず、常に自分自身を更新し続けるマインドがあったからです。彼らは、目標を継続的な成長のプロセスの一部と捉えた。そして、その都度、次なる「目標」を設定すること。これで、「終わり」を感じることなく、前進し続けることができたのです。
2. 目標達成を機に、新たな人生のステージへ進む「卒業の道」
しかし、全てのアスリートが吉田さんや白鵬関のように、次々と新たな目標を設定し続けられるわけではありません。大きな目標を達成した後に、燃え尽き症候群(バーンアウト)のように、それまでの情熱やモチベーションを完全に失ってしまうアスリートも少なくありません。目標達成の瞬間に、それまでの全てを捧げた努力が報われた。そして「もうこれ以上、この道を歩む意味はない」と感じてしまうこと。これは、ごく自然な感情と言えるでしょう。
特に、その目標に至るまでのプレッシャーや、過酷な努力が大きすぎた場合、目標をクリアしたことで精神的、肉体的に消耗しきってしまい、その先への活力が湧かなくなるケースもあります。彼らにとって、その目標達成は、競技者としての「終点」となります。そして、新たな人生のステージへと進む「卒業」のタイミングとなるのです。
運転の目標も、自分らしい「次」を考えるヒントに
このアスリートたちの「進化の道」と「卒業の道」という二つの選択肢。これは、私たちが運転に関する目標を設定すること。そして、それを達成した際の「次の一歩」を考える上で、非常に重要なヒントを与えてくれます。
- 目標達成は、成長の証 その先を自由に考えよう
「高齢ドライバー」が運転に関する目標を立て、それを達成することは、自身の意識的な努力と、安全運転への深い意識の証です。それは揺るぎない自信につながると思います。
そして、目標を達成した後、「よし、次の目標を立てて、まだまだ運転を頑張ろう!」と感じる。それなら、吉田さんや白鵬関のように、新たな高みや運転の楽しさを見出す「進化の道」。これを選ぶことにあたります。
運転は誰かと競うものではないので、「これまで行ったことのない場所に旅行に行く」とか「家族を乗せて安全に送り届ける役割を果たす」といった、より個人的で楽しい目標を立てるのも良いでしょう。そして運転は、その目標を柔軟に設定したり、途中で変更したりできるという、アスリートにはない大きな利点も持っています。身体能力の変化や生活環境に合わせて、目標レベルを調整すること。これも、誰に遠慮することなく自由にできるのです。
もし、目標を達成したことでモチベーションが下がり、方向性を見失いそうだと感じたら、少し高めの「ストレッチ目標」を考えてみるのも一つの手です。現状維持ではなく、もう一歩先の目標を設定すること。これで、新たな挑戦の意欲が湧いてくるかもしれません。 - 目標達成は、次の選択肢を考える「時期」にもなり得る
一方で、アスリートが燃え尽き症候群になるように、「目標を達成したことで、一つの区切りがついた」と感じることもあるかもしれません。運転においては、もしかしたらそれが「免許返納」という選択肢を具体的に考える。その時の良いきっかけになる可能性も秘めています。
特に、運転には「時期」という側面が伴います。例えば、「孫が小学校を卒業するまで運転する」「仕事を完全に引退するまで」といった、具体的な「時期」を目標に組み込むこともできます。この「時期」が来たとき。あるいは目標とする「状態」(例:ゴールド免許取得)を達成したとき。そのときに、自分の身体能力や運転への意欲、生活環境の変化などを冷静に見つめ直すこと。これが大切です。
ここで興味深いのは、目標に向かってひたむきに走っている最中と、その頂上が見えてきた時。この間で、私たちの心境には大きな変化が生まれるということです。
運転の理想像を目指し始め、そこに向かっている最中は、まだ果たし切れていない思いや「未練」のようなものが心の中にあります。その未練を解消しようと必死になるあまり、周囲を冷静に見渡す余裕がなかなか持てません。
しかし、その理想像の達成が近くなると、あるいは実際に達成を果たすと、これまでの必死さが一段落する一方で、ある種の「心にぽっかりと穴が開くような感覚」や、言いようのない喪失感を覚えることがあります。不思議なもので、まさにその「必死さが和らぎ、心に少しの余裕が生まれた瞬間」。これこそが、それまで受け入れづらかった他の考えや選択肢を、ふっと素直に受け入れやすくなる。そんな絶好のタイミングなのです。
私たちは今、こうした人間の心の揺らぎやタイミングに寄り添うツールとして、「運転のエンディングノート™」の活用を構想しています。もっとも、このエンディングノートのあり方や位置づけについては、まだ様々な議論や賛否両論もあり、現在も模索の真っ最中ではあります。しかし、まさに「目標を達成した後のぽっかりとした心」に寄り添う。そして、その先の人生をどう豊かにするかを前向きに考えるための羅針盤として。こうしたツールが必要になると考えています。
そして、そこで「もう十分に頑張った。これからは運転以外の方法で生活を楽しもう」と感じるのであれば、それは決してネガティブな選択ではありません。あなたの人生をより安全で豊かなものにするための、賢明かつ前向きな「卒業」という決断と言えるでしょう。漫然と運転を続けるのではなく、自らの意思で区切りを設けること。これは、交通社会全体の安全にも貢献する、責任ある行動でもあります。
安全運転を続ける、あなたらしいマインドセット
先のことは誰にも分かりませんが、運転に関する目標を立て、それに向かって努力することは、安全運転を続けるための重要なマインドセットです。目標を持つことで、日々の運転への意識は高まり、常に改善の意識を持つことができます。
そして、その目標を達成したときにこそ、アスリートたちがそうであったように、ご自身の「内なる声」に耳を傾けてみましょう。もし、目標達成によってモチベーションが持続しないと感じるなら。それは無理に運転を続けるのではなく、別の選択肢を考えるサインかもしれません。
さらなる「次の挑戦」を選び、高めの目標設定で運転を楽しみ続けるのか。それとも、人生の「次のステージ」として運転を卒業し、新たな生活様式へと移行するのか。ご自身にとって最も適切で、最も幸せな選択を、主体的に判断することが大切です。運転のエンディングノート™を書いてみる、というのも一つの方法かもしれません。
いずれにしても、運転の目標は、あなたにとっての「終点」ではなく、常に「次」を考えるためのいいきっかけになると思います。是非、検討してみてください。
*「運転のエンディングノート」はDSSJが商標登録出願中です。
