高齢ドライバーの「内なる声」に従う そのためのツールと半数の支持で「石橋を叩かず渡る!」

前回のブログで高齢ドライバーの皆さんが安全運転を続けるためには、運転に対する心構え、すなわち「マインド」の強化が重要であることをお話ししました。この考え方をお示しすると、その都度多くの高齢ドライバーの方々から「私は日頃から人一倍、安全運転を心がけている」という反応が返ってきます。それはハンドルを握る者として、素晴らしい心がけだと思いますし、恐らく大半のドライバーがそう考えているはずです。事故を起こそうと思ってハンドルを握る人はいません。
しかし、それでも残念ながら事故は起きています。この事実は、単に「安全運転を心がける」という姿勢だけでは解決できない問題がある、ということを示唆していると思います。それは、まるで神頼みのように「どうか事故が起きませんように」と願っているのとそれほど差異がないからかもしれません。
本当に必要なのは、単に事故を起こさないという消極的な目標ではなく、もっと能動的で具体的に「自分自身が運転に求める内面的な目的」を持ち、それを達成しようとする強いマインドではないか、と考えています。運転を本来の目的である「移動手段」と割り切って考えるのではなく、視野を拡大し「どんな運転がしたいか?」と普段考えていないような問いを立てる。そして、その達成を目指すことで、より安全な運転行動が育まれるのではないか、と考えています。
運転は自分と向き合う対話の時間
この「自分自身の運転目的」は、個々のドライバーがそれぞれ見つけ出すユニークな(唯一の、独自の)ものです。だからこそ、誰かに指図されるものではなく、運転に長年の経験と自信を持つ高齢ドライバーのプライドを損なうものでもありません。
また、自分自身と向き合って対話することで、日頃から意識していることだけでなく、これまで考えたこともなかったような自分の運転に対する潜在的な気持ちに気づくこともあります。例えば、「私が運転に求めていたのは、自分自身のためだけではなく、社会の役に立ちたい、という思いがあったんだ」といった発見もあるかもしれません。こうした運転に対する目的は、家族や友人も知らない、話したことがない情報である可能性があります。そして、それらを共有することで、これまでなかなかうまく言葉にできず、理解されなかった自身の気持ちを周囲に伝える契機となったり、それがきっかけとなって自身の運転に対する理解や協力も得やすくなるではないでしょうか。
このような要素を、安全運転のための講習会などに盛り込むことができれば、参加者は他人事として聞き流すことなく、当事者として積極的に自分と向き合い、自らの心に深く刻まれるはずだと考えています(左耳から抜けない!)。そして、「自分自身の運転目的」という明確な目標が、これまでは漠然と身につけた技術や情報、用意した先進安全装備(ハード)がより有機的に結びつき、安全運転へと繋がっていくと思います。
マインドの効果はデータで証明できる?
私たちは、この「自分との対話」を支援し、内なる声を聞いて運転の(内的)目的を発見するためのツールを開発しました。このツールが、高齢ドライバーの皆さんが安全運転を続けるための強い動機となり、行動へと結びつく原動力になると考えています。
しかし、この考えはまだ仮説の段階です。本来ならツール使用の「ビフォー」と「アフター」を示し、その効果を証明することが一番説得力があるとは思います。しかし、マインドという目に見えないものを扱っているため、明確なエビデンスを示すことは非常に困難な状況となっています。これは自動車事故が起きた原因を突き止めること以上に、事故が起きなかった理由を探すのが非常に困難、ということと同じだと思います。
それでも、少しでも説得力を増す必要があり、私たちはデータを取り始めました。これまでツールを体験していただいた20人の高齢ドライバーに実施したアンケート(2025年9月22日現在)によると、「このツールで自身の運転目的を発見できた」と20人中11人が回答しています。
また、このツールを使って見つけた自身の運転の目的にはどんな感想を持ったか、との質問には、「納得感があった」と20人中13人が回答しました。これらのデータは、このアプローチに大きな可能性があることを示していると考えています。
データに基づき行動する時
これらの数値は決して高いものではない、と感じる方もいるかもしれません。しかし、様々な考え方を持つ高齢ドライバーの中で、約半数の方が内面的な目的を発見し、納得感を得られたという事実は、このツールが持つ潜在能力の高さを示唆していると考えています。
これからもデータの収集は続けていきますが、高齢ドライバーによる事故が多発している「現状を変えたい」と本当に思うのなら、行動を起こすべきと考えます。なぜなら、何もしなければ事態は悪くなる一方だからです。「天はみずから助くるものを助く」という言葉があるように、行動を起こさなければ何も始まりません。
社会的な課題を解決するには、データに基づいたアプローチが最も重要だと思います。私たちのデータにはまだまだ課題がありますが、これはまさに磨けば光る「原石」だと考えています。「明確なエビデンスがないと行動できない」という意見も理解できます。しかし、事故が多発している現状で、悠長に待っている時間があるでしょうか?半数近い高齢ドライバーが共感し、価値を見出したこのアプローチは、高齢ドライバーの事故問題を解決する可能性を秘めていると考えています。完成度はまだ低いかもしれませんが、まず試してみる。その姿勢が、今、求められているのではないでしょうか。
安全対策は、常に明確なエビデンスが得られるとは限りません。しかし、それでも挑戦し、試行錯誤を繰り返すことで、私たちは少しずつ前に進んでいけると考えています。高齢ドライバーの皆さんが、いつまでも安全で快適な運転を続けられるよう、私たちも検討を続けてまいります。