「運転卒業」したらどうなる?高齢者の生活を守る移動の新常識

「近くても 車で行くのが 当たり前」
「歩けるが 車で行くのが 我が習慣」
これらの川柳を見て、ドキッとした人はいるだろうか。車社会に慣れた私たちにとって、車は単なる移動手段ではなく、生活の一部だ。しかし、いずれ誰しも運転できなくなる時が来る。そのとき、突然の免許返納がどれほど生活を変えてしまうのか、あまり深く考えられていないことが多い。
そんな私は、最近定期券を持たない生活になった。それまでは移動手段として電車か車を選ぶのが当たり前だった。しかし、電車賃惜しさに、ある日、自転車で3〜4駅分を移動してみたところ、新たな気付きがあった。最初は久しぶりの自転車で大変だったが、風を感じながらの移動は思いのほか気持ちよく、何より体を動かす良さを改めて実感した。
免許返納で終わりではない
高齢ドライバーの免許返納が推奨されている。しかし、免許を返納すればすべて解決するわけではない。むしろ、免許返納後にどう移動するかの対策がなければ、日常生活の不便さが大きな課題となる。
移動の自由を奪われることで、外出の機会が減り、社会との関わりが希薄になる可能性がある。また、買い物や通院などの日常的な用事すらも負担になり、家族にも影響を及ぼすことがある。
では、免許返納後にどうやって移動するのか。その手段として、以下のような選択肢が考えられる。
- タクシー:自宅から目的地まで直接移動できるが、費用が高く、地域によっては利用しにくい。
- 公共交通機関:費用を抑えられるが、本数が少ない地域では不便。
- 自転車・電動アシスト自転車:健康維持にもつながるが、衝突や転倒リスクがある。
- 電動モビリティ:体力の負担を軽減できるが、操作に慣れが必要で、規制の理解も必要。
それぞれにメリット・デメリットがあり、どれか一つに頼るのではなく、状況に応じた使い分けが求められる。
「距離に応じた移動手段の使い分け」の提案
そこで、免許返納後も移動の自由を確保するための方法として、「距離に応じた移動手段の使い分け」を提案したい。
✅ 短距離(買い物・散歩) → 自転車・電動アシスト自転車(健康維持にもなる)
✅ 中距離(通院・役所) → 公共交通+タクシー(コストを抑えながら移動)
✅ 長距離(家族の家・旅行) → 家族の送迎+事前の計画(時間の確保と負担の分散)
移動手段を適切に組み合わせることで、行動範囲の縮小を防ぎ、生活の質を維持できる。特に長距離の移動に関しては、家族の協力が不可欠だ。ただし、「送迎=負担」にならないよう、家族としっかり相談し、送り迎えの計画を立てることが大切だ。
免許返納時の課題
- 活動範囲の狭小化
徳島県が実施した高齢者の追跡調査によると、免許返納後3か月以内に行動範囲が著しく縮小し、外出の機会が減ったという結果が出ている(jstage.jst.go.jp)。 - 買い物の不便さ
介護・福祉専門サイト「介護ウィキ」が行った調査では、免許を返納した高齢者の多くが「買い物が不便になった」と感じていることが報告されている。特に郊外や公共交通機関が充実していない地域では、食料品や日用品の調達が大きな課題となる(kaigowiki.com)。 - 活動範囲の拡大による効果
国立長寿医療研究センターの調査によると、運転を継続している高齢者のほうが、免許を返納した高齢者よりも要介護状態になるリスクが8倍低いことが分かっている(ncgg.go.jp)。これは、移動手段を確保し活動範囲を維持することが、高齢者の健康や認知機能維持に大きく関わっていることを示している。
目指すのは家族の笑顔
免許返納は「ゴール」ではない。むしろ、新しい生活の「スタート」だ。それを高齢者だけに任せるのではなく、家族全体でフォローすることが求められる。
確かに免許を返納すれば、事故の加害者になるリスクは減る。しかし、移動手段を失うことで、今度は事故の被害者になるリスクが増す可能性もある。交通事故は、歩行者や自転車利用者にも降りかかる問題だ。
高齢者が被害者になるのも避けたいし、大切な人を失うリスクも避けたい。そのためには、家族の協力が必要だ。物事は連続的なものであり、「終わり」があれば「始まり」がある。免許返納後の生活もまた、新たな移動手段を模索する過程である。だからこそ、高齢者の移動を支える環境を整えることで、本人だけでなく家族の笑顔も増えるのではないだろうか。