
2024年度末から2025年度初めにかけて、高齢ドライバーによる痛ましい事故が相次いで報道されました。ニュースを見るたびに、遠く離れて暮らす親御さんのことが心配になった方も多いのではないでしょうか。2019年に発生した池袋での事故の直後は、免許返納する人が増えたという社会現象も起きています。もし自分の親が事故を起こしてしまい、誰かを巻き込んでしまったら…。そう考えると、これまで平穏に暮らしてきた親御さん自身も。そして、その家族も、深い悲しみと後悔に苛まれることでしょう。
だからこそ、「そろそろ免許返納を考えたら」と家族が声をかけるわけです。しかし、親御さんがあっさり「わかった」と応じてくれるとは限りません。「まだ大丈夫」「運転しないと生活できない」と、返納を拒むこともあるでしょう。今回は、そのような状況に直面した際に、どのように親御さんと向き合い、話し合いを進めていくべきか。そのヒントを探ってみたいと思います。
反発を招かないための初期対応:共感と傾聴から始める
長年連れ添った運転との別れは、高齢の親御さんにとって、単に移動手段を失う以上の意味を持つことがあります。学校を卒業してすぐに免許を取得し、50年以上も運転してきたという方もいるでしょう。それは、配偶者や子どもよりも長い時間を共にした、かけがえのないパートナーのような存在かもしれません。そのような心情を理解せずに、「危ないから」「もう歳だから」と頭ごなしに免許返納を迫る。これは、「逆効果」です。
まず大切なのは、親御さんの気持ちに寄り添い、丁寧に話を聞くことです。高齢ドライバーによる事故のニュースについてどう思うか。何歳くらいまで運転したいと考えているか。今後運転してみたい場所や目的はあるかなど。様々な角度から意見や要望を尋ねてみましょう。それでも、なかなか話し合いにならないこともあると思います。
運転をする人には、多かれ少なかれ自分の運転に対する「美学」や「プライド」のようなものがあります。それは、他人から自分の運転を評価されたり、ケチを付けられたりすることを極端に嫌う、という現象が物語っていると思います。それらならば、親御さんのそうした反応を活用し、まずはドライバーとしての自身の思いや考えに耳を傾ける。これこそが、対話の第一歩となるはずだと考えています。
心を開く対話のステップ:夢の実現をフックにする
親御さんの運転に関する希望や夢などを明らかにし、それらをじっくりと聞く。その中で、もしかしたら、まだ達成できていない「目標」や「未練」。そのようなものが見えてくるかもしれません。「いつか夫婦で温泉旅行に行きたい」「孫を迎えに運転したい」。そうといった夢は、親御さんにとって運転を続ける大きな動機・モチベーションになっている。そんな可能性があります。
そこで次に提案したいのは、その夢の実現に向けて一緒に行動してみよう、と家族から持ちかけることです。いつ、誰が、何を、どうするのか、ということを具体的に話し合い、夢の実現に向けた計画を立ててみましょう。この過程で、家族も知らなかった親御さんの新たな一面。それを発見できるかもしれません。
そして、「夢の実現に向けて、一緒に考えてみよう」と行動を促してみるのです。親御さんの夢を真剣に叶えようとする姿勢は、親孝行にも繋がり、親御さんの心を動かす力になるはずです。もしかしたら、その過程で親御さん自身が体力的な不安を感じたり、夢の実現に向けた行動が負担になり、運転への自信を失ったりするかもしれません。でもそれは、運転に関して親御さんが自分自身と向き合い、自分なりの結論を自身が出そうとした証拠です。
夢の実現に向けて行動を始めると、その「阻害要因」との闘いとなります。その阻害要因の最たるものが「事故」だと考えています。人間には「阻害要因を排除したい」、という心理(メンタルコントラスティング理論)が働きます。それにより、必然的に事故を起こすまい、とする行動につながります。事故が心配で免許返納、と言っていた家族の申し出が、夢の実現に向けて話し合うこと。これが結果的に事故を避ける行動を引き起こすため、事故の心配が減る可能性がある。そうなると、今すぐ免許返納というわけではない。そういう判断につながると考えています。
そして、人間は目標を達成すると、次のモチベーションを見つけにくくなることがあります。また目標達成の途中で運転への未練が断ち切れる場合もあると思います。そうなったら、改めて免許返納に向けた話し合いを家族とすればよいのではないでしょうか。
リスペクトの気持ちを持って、長期的な視点で向き合う
親の運転免許返納問題は、非常に「デリケートな問題」です。第三者の意見や助言は参考になるかもしれません。しかし、最終的な解決を外部の事業者等に委ねるのではなく、家族として真摯に向き合う。そして、双方納得のもと、解決することが大切ではないか、と思います。
これまで育ててくれた親への感謝の気持ちと尊敬の念を持ちながら、運転に関する意見や要望を聞き、それを実現するために何ができるかを一緒に考える。少し根気のいることかもしれません。しかし、「頑張るなら応援する」というスタンスで接することも重要ではないでしょうか。
親御さんの希望の中には、きっと「安全に運転したい」「家族に迷惑をかけたくない」という思いも含まれているはずです。その思いを大切に、夢の実現という目標を設定しながら、長期的な視点で免許返納について話し合っていくことが、円満な解決に繋がるのではないでしょうか。そして、この問題は決して他人事ではありません。今は問題なく運転ができている現役世代も「明日は我が身」ということ。これを忘れずに、自分ならどうされれば、免許返納に納得するか。そのような観点から、高齢ドライバーである親御さんと向き合ってみてください。
