ドライバーの潜在的「希望」を形にする マインド面から安全運転を強化する新感覚アプローチ!

高齢ドライバーのプライドと漠然とした目標

高齢ドライバーによる交通事故の報道に接するたび、私たちは社会全体でこの問題の「新たな」解決策を模索する時期に来ていると感じています。その解決の鍵を握るのは、他でもない高齢ドライバー自身の特性を深く理解することにあります。長年の運転経験に裏打ちされた「自分の運転に自信がある」というある種の「プライドの高さ」は、周囲からの指摘や半強制的な免許返納への働きかけを難しくする要因となり得ます。

しかし、このプライドの高さは決してマイナス面ばかりではありません。「自分はまだ運転できる」「安全に運転し続けたい」という前向きな気持ちの表れでもあります。問題はその「運転を続ける」という意識が、多くの場合「移動手段の継続」という漠然としたものに留まり、具体的な「安全運転を継続するための目標」へと昇華されていない点にあると考えています。

車を運転することは、多くの場合「目的地へ移動する」「買い物を済ませる」といった「手段」の一つです。そのため、「手段」である運転そのものに具体的な目標を立てる、という発想は多くの方にとって馴染みが薄いかもしれません。しかし、運転を続けたい、という気持ちになった場合にそれまで「手段」だった運転が「目的」に変わっていることに気が付かず、必要な対応をとっていない、ということが多いと感じます。

そこで私たちは、運転の目的を明確化するためには、高齢ドライバーの方々がこれまで考えたこともなかった運転に関する潜在的な「希望」を明確にし、それを具体的な安全運転という目標へと結びつけるアプローチが不可欠であると考えています。漠然とした不安や課題を抱えながら運転していた状態から、運転に関する「希望」を明確化し、それに近づこうとするプロセスを通じて、より安全な運転と能動的な行動を促すことが可能と考えています。

「希望」を可視化するカードゲーム その4つのカテゴリー

この「潜在的な希望を明確化する」方法を「人生100年これからゲーム」から大きなヒントを得ました。このゲームが人生の重要な局面における個人の希望を、楽しみながら対話やゲームを通じて引き出す効果を持つことに着目したのです。この仕組みを「運転」に応用することで、高齢ドライバーの皆さんが主体的に自身の運転の「希望」や「目標」と向き合えるのではないかと考えました。

そこで、私は「運転版『人生100年これからゲーム』」とも言うべき、52枚のカードで構成されるゲームの開発に着手しました。このカードは、単に「はい/いいえ」で答えるだけではなく、手札の交換を通じて「自分にとって究極的に大切な運転に関する希望」を絞り込むという、より深く思考を促す仕組みを取り入れます。これにより、漠然とした運転の継続が、具体的な「安全運転の継続」という目標へと繋がる道筋を描き出すことができると確信しています。

この52枚のカードを網羅的かつ重複なく構成するため、私は運転に関する多様な希望を以下の4つの主要なカテゴリーに分類しました。これらのカテゴリーは、高齢ドライバーの生活全体と運転がどのように密接に結びついているかを多角的に捉えることを考慮しました。

  1. 高齢ドライバー自身の希望:
    運転が個人の生活、自立、自己肯定感にどう影響するか。
  2. 家族との関係における希望:
    家族との良好な関係を保ちつつ、運転を継続したい、あるいは運転に関する家族の理解やサポートを得たいという希望。
  3. 友人や第三者との関わりにおける希望:
    家族以外の社会との繋がり、地域貢献、趣味、そして周囲からの評価に関する希望。
  4. ハードウェア・環境・代替手段に関する希望:
    車両そのものや、運転をサポートする機器、そして運転を取り巻く社会インフラ、さらには代替移動手段に関する希望。

これらの分類を用いることで、運転をめぐる多岐にわたる側面からの希望を、漏れなく、かつ整理された形で提示することが可能になると考えました。

各カテゴリーの具体的な「希望」例とその背景

それでは、各カテゴリーから一つずつ、具体的にどのような「希望」がカードとして表現されているか、一事例とその背景と共にご紹介します。

まず、「高齢ドライバー自身の希望」カテゴリーからは、「目標とする年齢まで安全に運転を続けたい」というカードを挙げます。これは、多くの高齢ドライバーが抱く「いつまでも現役でいたい」という根源的な願いをストレートに表現したものです。この希望を明確にすることで、単に運転を続けるだけでなく、「安全に」という条件を意識し、そのための具体的な行動へとつながるきっかけを提供します。

次に、「家族との関係における希望」カテゴリーからは、「運転が上手で丁寧だと家族に褒められたい」というカードです。高齢ドライバーにとって、家族からの評価や信頼は非常に重要なモチベーションとなり得ます。この希望は、家族との良好な関係を保ちつつ、自分の運転技術やマナーを維持・向上させたいという潜在的な願望を示しており、安全運転への意識向上にも寄与すると考えます。

続いて、「友人や第三者との関わりにおける希望」カテゴリーからは、「安全で丁寧な運転と、周囲から認められたい」というカードを紹介します。これは、家族以外の社会、例えば友人、地域コミュニティ、あるいは見知らぬドライバーからも、自分の運転が「安全で模範的である」と評価されたいという社会的な承認欲求を反映しています。この希望は、社会の一員としての責任感を促し、周囲の模範となる運転を心がける動機付けとなります。

最後に、「ハードウェア・環境・代替手段に関する希望」カテゴリーからは、「最新の安全装置を導入し、機能性の高い車に乗りたい」というカードです。これは、単に古い車から新しい車に乗り換えたいというだけでなく、技術の進歩を積極的に取り入れ、それによって自身の運転の安全性を高めたいという具体的な希望を示しています。技術的なサポートを求めることは、自身の能力の限界を補い、より安心して運転を継続するための現実的な選択肢となり得ます。

潜在的な「希望」を見つめ、未来へ繋ぐ

このカードゲームの開発プロセスは、以前のブログで私が提起した「自分自身の現状(できること)を把握するのも大変だが、運転に関する希望(やりたいこと)を考えるのはもっと大変」という課題に対する一つの答えです。まだ粗削りな段階ではありますが、この「運転に関する希望」を明確にするカードゲームは、高齢ドライバーの皆様が、自身の運転に潜む漠然とした意識を掘り起こし、具体的な目標へと繋げるための強力なツールとなると確信しています。

このゲームは、単に免許返納を促すものではなく、むしろ「これからも安全に、自信を持って運転を続けたい」と願う方々が、その願いを実現するための道筋を自ら見つけるためのツールとなることを目指しています。

私たちはこのアイデアを、高齢ドライバーの皆様だけでなく、これから高齢期を迎える現役ドライバーの方々にも広くご紹介し、皆様からの貴重なご意見を収集することで、より良いものへと磨き上げていきたいと考えています。皆様の安全で豊かな運転生活のために、ぜひこの取り組みにご期待いただき、ご協力いただければ幸いです。

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