【このブログの概要】
75歳以上の免許自主返納数が減少している背景を「2:6:2の法則」や日本人の「モラトリアム(判断の先延ばし)」傾向から読み解くご提案です。返納に抵抗のない層が一巡した今、決断を保留したまま何も行動しない「中間6割」が持つ危険性と家族との平行線の原因を解説します。返納の強要ではなく、運転を続ける道を選ぶからこそ果たすべき「安全対策の義務」を提示し、主体的な決断を促すヒントをお伝えします。
テレビ朝日系列の番組「ビートたけしのTVタックル」。この番組では、よく高齢ドライバーの問題がテーマとして議論されることが多いようです。先日もこの問題に関する放送がありましたので、以下に概要をお伝えします。
番組で紹介されていた事故の事例は以下の3件です。
- 7月31日、群馬県藤岡市の貯水池にて、77歳男性が運転する自動車が水没し、死亡。貯水池付近はカーブが多く、アクセルとブレーキを踏み間違えて転落。
- 6月、名古屋市で75歳の男性が運転する車が右折時に電柱を避け、反対車線の防護柵に衝突。ブレーキとアクセルを踏み間違えたことが原因。
- 2023年4月、市川市で高齢男性が運転する自動車が駐車場を出て、正面のアパートに衝突。精算の際に落とした硬貨を拾おうとして車が動き出した。止めようとしてアクセルを踏み間違えた。
また、高齢ドライバーによる事故発生件数(出典:警視庁)は以下のとおりでした。
- 2023年:4,819件
- 2022年:4,579件
- 2021年:4,370件
- 2020年:4,246件
運転免許更新時の義務として、70歳以上は高齢者講習、75歳以上になると追加して認知機能検査が義務付けられています。高齢者講習の実態として、赤信号の見落とし、段差に乗り上げて植え込みに衝突、運転中に座席位置を調整する、といった事例が紹介されていました。
さらに、高齢ペーパードライバー向けの出張ドライブ講習や、高齢者講習の予約待ちを大幅に短縮した埼玉県の「岩槻高齢者講習センター」の開設などが紹介されていました。
高齢者が車を使い続ける理由としては、「買い物で重いものを運ぶため」「妻の送迎のため」「ゴルフに行きたいから」といった生活や生きがいに直結する声が多く上がっていました。
一方で、番組内では「75歳以上の運転免許自主返納数は、ここ数年で減少している」という事実も提示されていました。
なぜ自主返納数は減っているのか?「2:6:2の法則」から考える背景
ここで、なぜ75歳以上の免許自主返納数がここ数年で減少しているのか、その背景について私なりに考えてみたいと思います。
世の中のあらゆる物事は、大きく分けると「絶対に必要とする人」と「必ずしも必要としない人」の2つに分かれることが多いものです。例えば「本」で例えるなら、肌身離さず一生手元に置いておきたい本と、読み終えたらすぐに古本屋へ持って行く本、という分け方です。
しかし現実には、その中間に「持ってはいるけれど、肌身離さずというほどでもなく、かといって古本屋に売るほどでもない」という層が存在します。つまり実態は2極化ではなく、いわゆる「2:6:2の法則」のように3極化しているのではないでしょうか。
これを免許返納の問題にあてはめて考えると、次のようになります。
- 最初の「2」:絶対に免許を手放したくない人
- 最後の「2」:免許を返すことにあまり抵抗がない人
- 真ん中の「6」:どちらとも言えず保留している人
2019年に発生した池袋の暴走事故の直後、免許を返すことに大きな抵抗がなかった「最後の2」の人たちが、一斉に自主返納を行いました。これにより一時的に返納数が急増したものの、その「返納に抵抗がない層(ストック)」がすでに返し切って減ってしまったため、年々減少の一途を辿っている――これが現在のリアルな数字の背景ではないかと推測しています。
一番厄介な「真ん中の6割」が陥るモラトリアムの罠
そして、本当に解決すべき問題は、この真ん中に位置する「6割」の人たちです。
この6割の人たちは、「絶対に免許を返さない」と固執しているわけでもなければ、かといって「すぐに返す」わけでもない、一種の「モラトリアム(判断の猶予・決断の先延ばし)状態」に陥っている可能性があります。
「絶対に返したくない(最初の2)」の人たちは、その強い思いが原動力となり、何かしらの対策や行動を起こしているはずです(そうであってほしいと願います)。一方で、「どちらでもない(中間6)」の人たちは、何も行動を起こさない可能性が非常に高いと考えられます。
家族から「免許を返して」と言われても「NO」と答え、では免許を維持するために何か具体的な安全対策やトレーニングを実施しているかというと、それも「NO」。これでは家族は事故を心配し続けますし、高齢ドライバー側も家族を説得する材料がありません。結果として「平行線の議論」が延々と繰り返されることになります。
アンケート調査などで、日本人は中間にある「普通」という選択肢を選びやすい(中心化傾向が高い)と言われますが、この免許返納の問題においても、無意識に「決定を保留する中間層」に身を置いてしまう人が多いのではないでしょうか。
安住からの脱却:運転を続けるなら「安全運転の義務」を果たそう
確かに、結論を出さずに「中間領域」に留まり続けることは居心地が良いかもしれません。しかし、それは問題の先送りに過ぎず、最悪の結果(事故)を引き起こすリスクを孕んでいます。両端の2割が何かしら意思を持って行動しているのに対し、中間領域は「何も行動しない」という最も危険な状態を生み出してしまうからです。
だからこそ、私たちはこのモラトリアムに安住するのをやめ、どちらの道を進むのかを決断しなければなりません。
世の中の風潮としては「免許を返納する方向」へ誘導する傾向が強いですが、日本は民主主義国家ですので、自身の意志で「返さない(運転を続ける)」という選択をすることも当然認められています。
ただし、「返さない」という道を選ぶのであれば、それ相応の「義務」を負う必要があります。
年齢とともに、脳の判断力も足腰の筋力も、自分の思うようには動かなくなっていきます。運転を継続すると決めたならば、その衰えを補うための具体的な行動(身体・認知機能のトレーニング、運転範囲や時間の限定、安全運転計画の作成など)を日頃から実践する義務があるのです。
「どんな対策が必要かを自ら考え、それを実行する」――これこそが、運転継続を選ぶ者が果たすべき責任です。自分の「移動の自由」を守るための行動だと思えば、それは決して苦痛なことではないはずです。今こそ、決断を先延ばしにするモラトリアムの状態から抜け出しましょう。
番組内で精神科医の和田秀樹さんが主張されていたのは、「高齢者の免許返納には反対」という立場です。その理由として、「免許返納によって老いが加速する可能性が高まるから」とのこと。
筑波大学の市川政雄教授の調査では、「運転をやめた人は、運転を続けている人に比べて、要介護認定のリスクが2.16倍になる」とされています。国立長寿医療研究センターの調査でも「運転をやめた人は要介護状態になるリスクが約8倍に上昇」すること。これらが報告されています。
確かに「高齢者だからリスクが高い」というステレオタイプな見方だけで一律に免許を奪ってしまうのは危険ですが、事故を起こせば巻き込まれる側も巻き込んだ側も不幸になります。
「ただ漫然と運転を続ける」でも「周りに言われるがまま諦める」でもなく、自分自身の現状と向き合い、安全のための義務を果たしながらどう生きるか。ドライバー一人ひとりが真剣に判断し、行動を起こす時期に来ていると感じます。

