社会問題を考える手段としてのフィクション──『震える天秤』の紹介
秋も深まり、心穏やかに本と向き合いたくなる「読書の秋」。社会問題をテーマにしたフィクションに触れることで、現実とは異なる角度から日常の課題を考えるきっかけになることもあります。
私たちの事業は、免許返納を巡って家族と高齢ドライバーが意見を交わす際の葛藤や衝突を解消するお手伝いをしています。高齢ドライバーの交通事故は年々注目されており、11月11日の鹿児島をはじめ日本各地で発生しています。このような問題に直面すると、単なる数字やニュースだけではなく、フィクションの中で登場人物の感情や価値観に触れることも新たな発見となります。
今回ご紹介する小説『震える天秤』も、そうした視点を与えてくれる作品です。本作は、ある事件を巡る人間関係の中で、それぞれの立場や信念が「揺れる天秤」のように揺れ動く姿を描いています。関係者たちが互いに異なる「正義」と「責任」を抱え、それを追求する中で、社会の中でどのように価値観がすれ違い、形成されるかを考えさせられます。鹿児島での高齢者事故をはじめ、免許返納問題に関わる家族の葛藤も、ただ「安全を守る」という一辺倒の視点では測れない、複雑な人間関係の上に成り立っています。
こうしたフィクションの物語は、ニュースや統計だけでは得られない「人間らしさ」を体験する貴重な機会です。免許返納や運転継続を巡る家族間の意見の違いは、誰にとっても簡単に答えが出せるものではなく、まさに「揺れる天秤」のような状況です。私たちの提供する「運転継続計画」も、家族の納得感を得ながら最適な解決策を見出していくための手段であり、単純な答えを提供するものではありません。
『震える天秤』は、人間がそれぞれの信念に基づいて選択し、どのように動いていくかを深く描いています。家族や当事者がそれぞれの思いでぶつかり合う姿を通じて、高齢ドライバーの免許返納問題のような現実の課題も、異なる視点から捉え直すきっかけになるかもしれません。読書の秋に、本作を通じてフィクションの世界で社会問題に触れ、今一度、私たちの社会が抱える課題について考える時間を持ってみてはいかがでしょうか。