高齢ドライバーの「気持ち」を体験!「老いパーク」で見えた運転寿命延伸へのヒント

先日のブログで「高齢者の疑似体験」が高齢ドライバーの問題を解決する糸口になるのではないか、と考えました。そして、そのブログの最後に東京ビッグサイトでの展示会に合わせて、それが可能な東京のお台場にある日本科学未来館の「老いパーク」を訪れたい、と記述しました。ビッグサイトへの訪問はまだ先のことかな、と考えていましたが、自治体向けの展示会に行く予定だったことが後でわかり、帰りに立ち寄ることにしました。この訪問は、私自身が高齢ドライバーの問題に対し、より高い共感と理解を深めるための貴重な一歩となりました。

五感で知る「老い」の「体感」

日本科学未来館を訪問した日は夏休み直前の平日とあって、館内は比較的空いているだろうと予想していましたが、良い意味でその期待は裏切られました。小学生の団体が先生方に引率されて多数見学しており、館内は活気に満ち溢れていました。また、多くの外国の方々も来場されており、日本の科学技術への関心の高さが窺え、なんだか日本人の一人としてとても嬉しく思いました。

そして肝心の「老いパーク」では、高齢化に伴い変化する聴覚、視覚、歩行感覚、記憶力などを疑似体験することができました。

聴覚の体験では、普段聞き分けられる人の名前が、高齢になるとどのように聞こえるのかを体感し、日常生活に支障をきたす可能性を実感しました。運転時においては、クラクションを鳴らされていることなど、音が認識できればいいから、あまり言葉を聞き分けられなくても大きな影響がないのかな、と一瞬考えましたが、よく考えるとカーナビの指示を聞き間違えてパニックになり、事故につながる、ということも考えられ、無関係ではない、と感じました。また、エンジン音の変化などで車の異常を判断することを考えると、言葉としての聞き分けだけでなく、音を細かく識別する能力も極めて重要だと再認識しました。

視覚の体験は、高齢者の視点でゲーム画面を見る展示があり、子供たちに大人気だったために私が体験することは憚られましたが、健常者が見る鮮やかな色の世界も高齢に伴う色覚の変化でモノトーンに感じられたり、ピントのズレによって見え方が変わることが理解できる、という展示のようでした。運転において視覚は極めて重要な感覚であり、色の違いが分からなくなれば信号機の色の認識に支障が出る可能性があり、ピントが合わなければ歩行者や標識を見落とす危険性が高まります。せっかく逆走防止のために大きな看板を掲げても、ピントが合わなければ効果が薄れてしまいます。ちなみに、私の母が免許返納を決めたきっかけも、ペンのキャップがはめられない様子から遠近感に支障が出ていることに私が気づき、交差点で歩行者との距離感を誤って事故につながるのではないか、と懸念して議論を始めたことがきっかけだったことを思い出しました。

歩行感覚の体験もとても人気があり、私が実施することはできませんでしたが、高齢者の足が思うように動かなくなることを足に錘(おもり)をつけて歩くことで再現し、歩行が難しくなることを確認できるものでした。そして高齢者の歩行を急かすような状況が次々に展開され、焦りを生む工夫もされていました。これは、アクセルとブレーキの踏み間違いという深刻な事故の原因にも通じるのかな、と思いました。また、アクセルとブレーキの配置や操作性については、高齢者は足が重くて思うように動かないことを想定し、一番操作しやすい場所にブレーキペダルを配置するように工夫するなど、今後の自動車開発の中で再考の余地がある、と感じました。

記憶力の体験では、短時間で多くの情報を記憶することの難しさ、そして新たな情報が次々と入ってくると古い情報が上書きされてしまう現象を体感しました。運転中は信号機や標識の情報が瞬時に次々と連続して現れるため、情報の記憶保持がいかに困難で難しいかを痛感しました。

高齢社会を支えるイノベーション

高齢になると身体機能が若い頃に比べて変化することを疑似体験できましたが、同時にそれを補うための革新的な技術や製品の展示も目にしました。視覚や聴覚の衰えを補うデバイス、移動をサポートする機器、そして記憶力の低下に対応するツールなど、多岐にわたるソリューションが紹介されていました。高齢によって体調が変化しても、これらの技術が不足した部分を補ってくれるという事実は、非常に心強く感じられました。

日本に限らず、世界の多くの国々で高齢者の割合は今後ますます増加すると予測されています。来るべき超高齢社会において、少しでも社会の役に立ちたいという思いで、日々研究開発に尽力されている関係者の皆様には、改めて感謝の念を抱きました。彼らの努力こそが、高齢者が生き生きと活躍できる社会を築き、ひいては世の中を明るくする原動力になると改めて確信しました。私たちは、そうしたイノベーションを応援し、高齢者一人ひとりが安心して暮らせる未来を共に創造していく必要があるのだと思います。

高齢者の理解と共感の重要性

そして私たちが提唱する「運転継続計画」もまた、高齢ドライバーが安心して運転を続けるための未来に役立つサービスの一つと考えています。若い頃には運転をする際に特に意識する必要がなかったことでも、高齢になると意識・考慮してやるべきことが増えます。例えば、運転の範囲を限定したり、定期的な運転技術のチェックを受けたり、時には公共交通機関の利用を検討することも含まれます。この運転継続計画は、高齢者が快適で安全な生活を送りたい、という目標と実際の行動内容との「橋渡し役」になります。行動内容の中に、例えば定期的にカラオケで歌う、とかフィットネスに通う、などを計画として盛り込む支援を行うことも、高齢者を応援し、高齢者が活躍する社会を築くような先進的な取り組みとなる、と考えています。

誰もがいつかは高齢者になります。今回「老いパーク」を訪れていた小学生たちも、身近に高齢者がいる人もいたと思います。そんな彼らが高齢者の気持ちを体験することは、他者の気持ちを理解し、共感する力を育む上で非常に重要だと感じました。そしてこの「老いパーク」での体験を通じて、彼らの何人かが高齢者の役に立つ製品やサービスを生み出す人物になる、そんなことを心から願わせていただきました。

日本科学未来館は「老いパーク」以外にも、先人の偉業や未来の世界を感じさせる多様な展示があります。高齢ドライバーの気持ちを知りたい人だけでなく、科学に興味があるすべての人に、ぜひ一度訪れて欲しい場所でした。

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