高齢ドライバーの「現状」を知る 同乗体験から見えた新たな視点

先日、事業を通じて知り合った方のご厚意で、高齢ドライバーが運転する車に同乗させていただく機会を得ました。これは、高齢ドライバーが運転を続けるためには何をしたらいいのか、ということを考えるための調査の一環とのこと。私の場合、実父はすでに他界し、実母も免許を返納してしまったため、高齢ドライバーが運転する車に乗る機会はもうないだろうと考えていたので、予期せぬ、そして非常に貴重な経験となりました。
なお、同乗させていただくのに先立ち、同乗する車を運転していただく高齢ドライバーの方の自家用車を事前に拝見させていただきました。車両前方の左右バンパーには、遠目にもわかるほど多数の傷が確認でき、普段から頻繁に運転されていること、そしてもしかすると運転に難しさを感じている部分もあるのかな、という印象を受けました。少し不思議に感じたのは、日本車の場合、運転席から遠い前方左側のバンパーをぶつけやすいと考えていたのですが、その方の車はなぜか前方右側の傷が多く、目立っていたことです。私の想定とは異なる状況に、様々な想像が頭を巡りました。そんな事前情報を頭に入れながら、いざ後席に乗せていただく段になり、言うまでもなく、シートベルトの確認を何度も念入りに行いました。
杞憂に終わった運転への不安、見えてきた課題
実際に同乗が始まると、私の抱いていた心配はすぐに杞憂に終わりました。普段から運転されているだけあって、その方の運転操作は想像以上にスムーズでした。数年前に自分の実母の車に乗せてもらった時のことを思い出すような、慣れた運転ぶりでした。
今回は教習所内での運転で、助手席には教習所の先生、後席には運転の様子を車内から記録する方と私の計4人が同乗しました。教習所内の運転ということもあり、出せるスピードには限りがありましたが、高齢ドライバーの方のアクセルワークにはメリハリがあり、スピードを出すべきところでは出し、抑えるべきところでは抑えるという、きびきびとした運転でした。S字クランクもそつなくクリアし、左側に障害物があっても難なく避けて走行する姿を見て、思った以上に安心して同乗できました。
しかし、細かな点でいくつか気になる部分もありました。駐車のためのバック操作がおぼつかないこと、ウインカーを出すタイミングが遅いこと、そして一時停止が不完全であることなど、素人の目から見ても「ん?」と感じる点がいくつかありました。高齢になるにつれて運転技術に苦手な部分が出てくることがあるとは思いましたが、それが運転全般に現れるのかな、と想像していました。しかし、実際には、特定の行動にその「兆候」となる操作が現れ、まさにその兆候の一部がこのような形で発現したのかもしれない、という印象を持ちました。
プロの視点と脈拍データが示すもの
無事に同乗を終え、教習所の先生から高齢ドライバーの方へのフィードバックがありました。案の定、駐車のためのバック、ウインカーのタイミング、一時停止の操作について先生からコメントがありましたが、それ以外にも、車両左側の感覚や交差点における左右の確認が不十分であるなど、プロならではの細やかな視点からの指摘がありました。
ちょっと意外だったのは、高齢ドライバーの方の運転前後の脈拍数や血圧が、運転後にむしろ落ち着いていたことです。正直なところ、様々な観察をされていることで緊張し、数値が高めに出るのではないかと勝手に想像していました。しかし、運転後に落ち着くという結果は、高齢ドライバーの方が日常生活の中で運転するという行為が特別なことではなく、自身の運転に自信を持っていることの表れなのかもしれないと、勝手に想像しました。
そして、同乗前に気になっていた車両前方左右の傷の原因について、今回何かしらの現象が同乗させていただく中で再現されることを期待していましたが、残念ながらそれを検証することはできませんでした。しかし、教習所の先生からの指摘にあった「車両の感覚」や「左右の確認不足」などが、あの傷の原因に繋がっているのかもしれないと改めて考えました。また、今回運転された教習車が、その方が普段乗られている車よりも一回り小さかったことも、運転のしやすさにつながって、原因究明にはつながらなかったのかもしれない、そして、車両感覚は高齢化に伴い、早期に失われがちな機能の一つなのかもしれない、と感じました。
安全な運転継続のために:新たな可能性の確信
今回、幸運にも高齢ドライバーが運転する様子を間近で勉強させていただく機会に恵まれ、多くの気づきがありました。そのひとつが、運転に関する能力や技術の低下は一概に全てが同時に発現するのではなく、特定の兆候となる操作から始まる可能性がある、という発見です。
そうした兆候を明確化し、それが現れ始めた段階で何らかの対策を考え、実行に移すことが非常に重要なのかもしれません。その際、免許返納を考えることもその対策の一つですが、逆に運転を続けるための具体的な計画を立て、実行していくことも含まれると思います。
また、今回の調査では、運転の実技だけでなく、様々な機器を用いた検査なども実施されており、その様子も見学させていただきました。私が想像していた高齢ドライバーの印象と実態にはかなりギャップがあること、そして、タブレット上に表示される難しいパズル的な問題にも、完璧とは言わないまでも、かなりの確率で「正解」を導き出す光景を見た時には、私なりの気づきと驚きがありました。そして、高齢ドライバーが安全に運転を続けるための支援を行うことは、世間一般で思われているほど「無謀」なことではない、という確信を得ることができました。
もちろん個人差はありますので、全ての高齢ドライバーが同じ状況であるとは思いません。しかし、その人の状態に応じて個別に判断する必要性を強く感じ、何らかの努力を行動としてしっかり実施すれば希望は叶う、という強い気持ちを持つことができました。今回の調査結果が最終的にアウトプットされることを今から楽しみにしたいと同時に、私たちの事業が少しでも社会の役に立てるかもしれない、という可能性を強く感じました。