船橋市で高齢ドライバー事故発生!個人の問題ではなく社会の問題として対策を立て、再発防止を

写真出展:千葉日報 https://www.chibanippo.co.jp/news/national/1425240
先日(2025年4月10日)は千葉県船橋市内において、高齢ドライバーが運転する車両が病院の建物正面から突っ込む事故が発生し、来院者ら男女5人と運転男性の計6人が軽傷を負ったそうです。事故の詳しい状況や原因については、現在警察が詳細な捜査を進めていますが、事故を起こした高齢ドライバーは「アクセルとブレーキを踏み間違えた」と説明している、とのこと。この事故は、改めて高齢ドライバーによる交通事故問題を社会に突きつけるとともに、新たな対策の必要性を強く訴えかけるものとなりました。
相次ぐ高齢ドライバー事故の現状と警鐘
最近、高齢ドライバーによる痛ましい交通事故が後を絶たず、社会全体に深刻な影を落としています。これまでは地域ニュースとして扱われていたかもしれない事故が、全国的に大きく報道されているためかもしれませんが、この問題の注目の高さを物語っていると思います。
同時に次々と報道される悲劇的な事故が、それまでに発生した事故の情報に上書きされてしまい、情報の風化が速いテンポで進んで、根本的な問題解決の議論が先送りにしてしまうのではないかという懸念を感じます。
事故を引き起こした高齢ドライバーの方には、身体能力の低下や認知機能の変化など、何らかの原因が存在していたことは否定できません。しかし、この問題を単に「高齢ドライバー個人の不注意」や「自己責任」といった言葉で片付けてしまうと、本質的な問題の解決には辿り着けないでしょう。なぜなら、この問題は「個人問題」として扱うのではなく、「社会全体の問題」としてとらえ、解決しなければならないからです。
免許返納だけでは解決しない
現在、警察や自治体などが中心となって、高齢ドライバーや家族等に対して免許返納を呼びかける啓蒙活動が行われています。しかし、それだけでは、問題は解決できていません。かと言って、資本主義の日本において、個人の自由な意思を無視するような、免許返納を強行するようなことは現実的ではありません。
仮に、安易な免許剥奪や強制的な返納を推し進めるようなことがあれば、高齢ドライバーの移動の自由を奪い、生活の質を著しく低下させるだけでなく、新たな社会的な不満や対立を生み出す可能性すらあります。免許返納は、本来、高齢ドライバー本人やご家族がそれぞれの状況や将来設計を慎重に考慮し、時間をかけて話し合い、最終的に納得のいく結論を出すべきものです。
しかし、その重要な結論に至るまでのプロセスにおいて、今まで以上の対策により、情報提供や相談支援など、社会全体で高齢ドライバーを丁寧にサポートしていくことが、求められているのではないかと感じます。現状の「免許を返納すれば、公共交通機関の割引やタクシー券などのメリットがあります」といったインセンティブ提示型の対策だけでは、免許返納が進まない本質的な理由、すなわち長年培ってきた運転への愛着、日常生活に必要な移動手段を失うことへの根深い不安、そして何よりも「自分はまだ大丈夫」という主観的な自信といった感情的な壁に十分に対応できていないと言わざるを得ません。
多角的な視点と具体的な仕組みづくり
私たちは、現状の対策から一歩踏み出し、事故の悲劇を二度と繰り返さないために、これまでより、より実効性のある対策を講じる必要があります。それは、単に高齢ドライバーに運転をやめさせるという短絡的なアプローチではなく、憲法で保障された個人の自由を尊重しつつ、社会全体の安全性を高めるという、より困難で複雑な課題に取り組むということになります。
そのためには、個人にだけ過度な負担を強いるのではなく、免許返納が適切に進むことで、交通事故の減少、という明確なメリットを享受できる自動車メーカー、保険会社、交通事業者、自治体などが主体となり、具体的な対策を実施していくべきではないでしょうか。その際は、安全な運転ができるように日々努力をしている高齢ドライバーも存在するという事実を踏まえ、そのような方々の運転する自由も尊重し、その能力を社会に活かす道を探ることも重要です。
不幸な交通事故を根絶するという強い目標を持ちながら、同時に、すべての人が移動の自由を享受できる社会を目指す。この二つの両立は決して容易ではありませんが、社会全体が知恵を絞り、新しい技術を活かし、粘り強く取り組むことで、必ずやより安全で、誰もが安心して暮らせる社会を実現できると思います。
未来に向けて
2021年4月にホンダが「2050年までに全世界で二輪車・四輪車が関与する交通事故死者ゼロを目指す」という壮大な目標を掲げました。これを一企業の目標とするのではなく、日本の社会全体が同様の目標を掲げ、社会全体を鼓舞しながら、過去の事故の教訓を踏まえ、より具体的で実効性のある対策を策定し、実行していくべきだと考えます。
私たちは、過去に繰り返された悲劇的な交通事故から目を背けることなく、その教訓を深く学び、未来へと繋げていかなければなりません。次々と発生する事故の背景にある社会構造の変化、技術の進歩、そして人間の心理といった多角的な視点から問題を捉え、本質的な解決策を探求していく必要があります。
過去の失敗例をしっかりと分析し、これまで築いてきた土台の上に対策を実行することこそが、時間を有効に使い、効果を上げるための唯一の道です。
そして高齢化が進む現代において、高齢ドライバー問題は決して他人事ではありません。昨今の事故は、明日は我が身である可能性を強く示唆しています。私たち一人ひとりがこの問題を真摯に受け止め、それぞれの立場で何ができるかを考え、行動していくこと。そして、社会全体で知恵と力を結集し、二度とこのような悲劇を繰り返さないために、未来世代に安全で安心できる社会を引き継いでいくことこそが、今を生きる私たちの責務と言えるでしょう。