運転寿命を延ばすために 健康と向き合うドライバーの責務と自身の希望実現のための絶対条件

私は先日「MCI(軽度認知障害)」の検査を受けてきました。注射が大の苦手な私にとって、血液を抜く今回の検査(メタロ・バランス検査)は正直乗り気ではありませんでした。しかし「80歳になる直前まで安全に運転を続けたい」という願いを実現する、という強い思いがあるからこそ、勇気を出してチャレンジしました。約5週間後の結果が来るまでの間は少し落ち着かない日々が続きそうですが、自分の運転寿命を延ばすための一歩として、今回の決断は間違いなかったと信じたいと考えています。
運転寿命を脅かす「MCI」とは?
「MCI」は年齢相応の物忘れよりも記憶力や認知機能の低下が見られるものの、日常生活にはまだ支障がない状態を指します。いわば、認知症の「前段階」にあたる状態です。誰もが年を重ねれば物忘れが増えるものですが、MCIはそれとは異なり、将来的に認知症へと移行するリスクが高いとされています。しかし、MCIになったからといって、必ずしも認知症になるわけではありません。早期に気づき、適切な対策を講じることで、認知症への進行を遅らせたり、中には健常な状態に戻る方もいらっしゃいます。高齢ドライバーが安全に、そして長くハンドルを握り続けるためには、このMCIと正面から向き合うことが非常に大切です。
「MCIかも?」と感じたら、まずは検査・確認を
では、どのようにMCIに気づき、確認すればよいのでしょうか。MCIには、ご自身で「あれ?おかしいな」と感じる自覚症状があるのが特徴です。例えば、「以前より物忘れが増えた」「人の名前や物の名前がすぐに出てこない」「探し物が増えた」「料理の段取りが悪くなった」「新しいことを覚えるのが億劫になった」といった変化。もし、これらの自覚症状が複数当てはまったり、ご家族や周囲から「最近、様子が違う」と指摘されたりするようであれば、「もの忘れ外来」や「認知症サポート医」がいる医療機関を受診することがお勧め、とのことです。
MCI検査は、いくつかの種類を組み合わせて行われます。通常は、問診でご本人やご家族から詳しい話を聞き、神経心理検査(認知機能テスト)で記憶力や判断力などを客観的に評価します。これには、よく耳にする「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」などのテストが含まれます。 さらに、身体検査や血液検査で、認知機能低下の原因となりうる他の病気(甲状腺の病気やビタミン不足など)がないかを確認します。そして、MRIやCTといった脳画像検査で、脳の萎縮や脳梗塞の有無などを確認し、必要に応じて、脳血流の状態を調べるSPECT検査や、アミロイドβの蓄積を画像化するPET検査、血液中のバイオマーカー検査なども行われるそうです。これらの多角的な検査によって、MCIであるかどうか、またその原因は何なのかが詳しく診断されるとのことです。今回私が受けたメタロ・バランス検査というのは、これらの手法とは異なりますが、血液中の微量元素濃度を測定し、統計学的手法で解析することでリスクをスクリーニング(ふるい分け)評価し、自覚症状が出る前・より早い段階で疾患を発見する新しい検査だそうです。
MCIと診断されても諦めない!対処方法がある
もし、MCIと診断されたとしても、決して悲観する必要はありません。むしろ、早期に状態を把握できたことを前向きに捉えるべきです。MCIから健常な状態に戻る方や、認知症への進行を遅らせることができる可能性が十分にあるからです。
対処方法は主に生活習慣の改善(非薬物療法)が中心となります。
適度な運動、特にウォーキングなどの有酸素運動は、脳の血流を良くし、活性化に繋がります。バランスの取れた食生活、例えば野菜や魚を多く摂る「地中海食」のような食事も推奨されます。
また、読書やパズル、新しい趣味に挑戦するなど、積極的に頭を使う「知的活動の習慣化」も有効です。
人との交流を増やし、社会参加を続けることも、脳に良い刺激を与えます。
質の良い睡眠を十分にとり、高血圧や糖尿病といった生活習慣病をしっかり管理することも極めて重要です。
そして、最近ではアルツハイマー病が原因のMCIに対し、「レカネマブ(レケンビ®)」のような新薬も登場しました。この薬は、アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβの蓄積を減らすことで、病気の進行を遅らせる効果が期待されています。ただし、適用には条件があり、専門医による慎重な判断が必要です。
そもそもMCIにならないための予防策
MCIになる前の段階から、認知機能の低下を防ぐための予防策に取り組むことは、運転寿命を延ばす上で非常に効果的です。
最も重要なのは、適度な運動を継続することです。有酸素運動はもちろん、運動しながら計算やしりとりをする「コグニサイズ」のようなデュアルタスク運動は、体と脳を同時に刺激し、認知機能の維持に役立ちます。
次に、バランスの取れた食生活を心がけましょう。特に糖質の摂り過ぎは避け、野菜、青魚、大豆製品などを積極的に取り入れることが推奨されます。
また、知的活動の習慣化も予防の要です。新しい趣味を始める、楽器を演奏する、文章を書くなど、脳を使い続けることで認知機能の衰えを緩やかにできます。
そして、活発な社会参加とコミュニケーションを忘れてはいけません。人と会話し、交流することは、脳に良い刺激を与え、精神的な健康も保ちます。 最後に、生活習慣病の予防と管理です。
高血圧や糖尿病、脂質異常症は、認知症のリスクを高めることが分かっています。これらを適切に治療・管理し、禁煙や適度な飲酒を心がけることが、認知機能の健康を保つ土台となります。
健康な体が、安全な運転を支える
MCIや認知症は、確かに高齢ドライバーにとって運転寿命を脅かす大きな「敵」です。しかし、今日ご紹介したように、早期発見と適切な対策、そして日頃からの予防によって、そのリスクを軽減し、運転寿命を延ばすことが十分可能です。私たちが推奨している運転継続計画を作成し、その中にMCIの予防策を盛り込んでみてはいかがでしょうか。
ちなみに、運転寿命を縮める「敵」はMCIや認知症だけではありません。例えば、脳卒中(脳梗塞や脳出血)は、手足の麻痺や視覚障害、高次脳機能障害を引き起こし、運転能力に深刻な影響を与えます。また、心臓病(不整脈や心不全など)は、運転中に意識を失うリスクを高めたり、体力の低下で長距離運転が困難になったりすることがあります。さらに、緑内障や白内障といった目の病気も、視野や視力に影響を与え、安全運転を妨げる大きな要因となります。
これらの病気も、定期的な健康診断や医師の診察によって早期に発見し、適切に治療・管理することが極めて重要です。
私たちがハンドルを握る上で大切なのは「ドライバー自身の健康」です。自分の健康状態を過信せず、定期的に身体のチェックを行い、変化があれば迷わず専門医に相談する。そうした地道な努力こそが、安全で、そして充実した運転寿命を長く維持するための、何よりの前提となるでしょう。