高齢ドライバー事故が減少?報道の減少が楽観論につながる?外見が良くても中身は火の車の実態

少し前まではニュース番組や新聞でも数多く取り上げられ、世の中の話題となった高齢ドライバーによる交通事故。最近は時折目にする程度で、以前ほど報じられる機会が少なくなったように感じる方も多いのではないでしょうか。私自身もそんな印象を持っています。しかし、これはあくまで推測ですが、政治的な大きな動きや戦争の情勢、国内外の重要なニュースが優先的に報じられ、相対的に高齢ドライバー事故を扱う順位が下がっている、という事情があるのかもしれません。
そこで実態を調査してみると、2025年も高齢ドライバーによる重大な事故は継続して発生しています。
例えば、2025年6月17日には長野市内のスーパー駐車場で91歳の男性ドライバーがアクセルとブレーキを踏み間違え、助手席にいた84歳女性が死亡する事故が起きています。
また、2025年7月14日には東京都町田市で、70代の女性が運転するデイサービスの送迎車が坂道を誤って運転し電柱及びガードレールに衝突し、乗っていた利用者7名のうち1名(80代男性)が搬送先で死亡、他に8人が重軽傷を負う大きな事故が発生しています。
さらに、2023年9月13日には埼玉県さいたま市の介護施設敷地内で、75歳男性ドライバーが送迎車を誤操作し歩行中の利用者3名をはねた事故で、2名が死亡、1名が軽傷を負いました。この事故は過失運転致死傷事件として捜査されています。
これらは報道された事故の一例に過ぎません。つまり、高齢ドライバーによる事故が多発している、という社会問題は、解決したわけではなく、まだまだ継続している。そして、報道する側の何らかの事情で、事故の発生を知る機会が減ったことにより、世間の危機感が薄れ、本質的な問題解決が遠のいてしまうことが懸念されます。
事故の統計と統計的裏付け
では、統計データからは、高齢ドライバーによる事故の状況はどうなっているのでしょうか。そこで、様々なデータ等を調べてみると、高齢者ドライバーの交通事故数は依然として高止まりしていることが確認でき、問題の解決がなかなか進んでいないことがわかりました。
警察庁が公表している「統計表」という情報の中に「月報」というものがあり、そこから「交通事故統計」として各月の月末時点における様々なデータを確認することができます。そのうち「表2-6 65歳以上高齢者の年齢層別・状態別死者数の推移」のデータから「自動車乗車中」における「(65歳以上の)高齢者合計」の数値の年別推移をみると、各年の8月末のデータは以下の通りでした。
年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
件数 | 350 | 317 | 293 | 273 | 297 | 337 | 305 |
高齢者の「乗車中」という考え方は、本人が運転中だったことを指すのか、単に同乗していただけなのか、等に関する詳細までは確認ができませんでした。しかし、この数字が毎年同じ条件でカウントされていると考えれば、ここ数年だと2024年が異常に数値が高かったためにニュース等で取り上げられることが多かった、と考えることができます。そして、2025年は事故の絶対件数が劇的に減少した訳ではなく、2024年に比べて数値が相対的に減っただけで、2021年から2023年の数値と比較しても絶対件数が高い状態にあり、決して油断してもいい状況にないことがここから読み取れます。
過去の一時期に比べると自動車技術の進歩などにより高齢者の事故件数は一時期に比べると大幅に減った、というマクロ傾向はみられます。しかし、最近は事故に関する数値が再び増加に転じているというミクロ傾向もあり、高齢ドライバーによる事故の問題はまだまだ解消されていません。今後も継続的かつ効果的な対策が求められている状況にあり、私たちも微力ながらこの問題の解決に貢献したい、と強く考えています。
現状対策の課題と提言
現実に起きている様々な事実から冷静に考えると、高齢ドライバーの問題は未だ解消されていない、そして、現行の対策に限界が見えはじめている、と言えるのではないでしょうか。これまでの事故防止のための啓発活動や免許返納の推奨、サポカーの普及促進など施策が事故に関する数値を改善するのに貢献したことは事実だと思います。しかし、ここ最近は踊り場にさしかかり、期待される事故減少の結果には十分結びついていない、と言わざるを得ないのではないでしょうか。
ここで強調したいのは、「データドリブン」の発想です。事実を物語る客観的な数字が高止まり、現行対策の見直しや新たた取組み導入の必要性を明確に示しているわけですから、マンネリ化や硬直化した現行の対策に固執せず、新しい発想や技術を取り入れる柔軟性を持って、問題の本質的解決につなげていくべき時ではないでしょうか。そのための施策を広く調査し、必要なリソース配分の見直し等を図って、データ推移を見ながらの効果検証を徹底する必要があると考えます。
最後に
高齢ドライバーによる事故は依然として減少しておらず、社会に深刻な影響をもたらしています。報道の減少は決して事態の好転を意味せず、むしろ我々の危機感を鈍らせる恐れがあります。有名な映画「ルパン三世 カリオストロの城」のラストシーンでは、舞台となったお城が外見はそれほど大きな変化はないけど、地下の造幣施設では火事が発生している、というシーンを覚えている方も多いと思います。私は、まさに今の高齢ドライバーの事故の問題が、外見的にはあまり問題がないように見えるけど、その内情は燃え盛る炎が上がっている状態だと感じています。この状態を放置していては、今後本当に大変なことになり、取り返しがつかない事態にもなりかねない、ということを危惧しています。
人間が運転をやめない以上、事故を完全になくすことはできないでしょう。だからこそ、私たちは危機意識を絶やさずに持ち続けることが不可欠だと思います。そのためには現状の安全対策に満足するのではなく、さらなる知恵を絞って改善を進め、絶えず新たな方法を模索していかなければなりません。
高齢ドライバーによる事故の問題は、単なる個人の問題ではなく、益々高齢化が進む社会全体の大きな課題の一つです。その課題に対して、ただ単に評論するだけではなく、実際に対策を考え、実際に行動することで、住みよい社会を一緒に築いていきたい、と私たちは考えています。共に歩み、安全で明るい未来を築いていきましょう。