未来への情熱と安全への探求 ジャパンモビリティショー2025 を見学して考えること

いつも自家用車のことでお世話になっているディーラーの方から、私が安全運転に関する事業に携わっていることをご存知ということで、光栄にも「ジャパンモビリティショー2025」のチケットを2枚いただくことができました。展示会といえば「無料」という先入観が強かった私にとって、有料の展示会はなかなか敷居が高く、足を踏み出せないでいました。しかし、一体どんな内容なのか、と興味津々でチケット入手を機にお邪魔することにしました。

以前、「東京モーターショー」だった時代に何度か見学したことがあり、そのときよりも「若者の車離れが進んでいる」との認識から、来場者が当時よりも少ないのではないか、また、比較的高齢層が多いのではないかと勝手に想像していました。しかし、その予想は良い意味で裏切られました。会場には、思った以上に小さな子どもや学生と思われる若い層が多く見受けられました。これは、自動車業界として、入場料を無料にしてでも車の魅力を若い世代に伝え、将来の大事な顧客として長い目で取り込んでいきたい、という強い姿勢の表れだと感じられました。

今回は休日と平日の2日間お邪魔させていただきました。そのうち、休日は家族連れで混雑している、というのはある程度想定内でした。しかし、驚いたのは平日も想像以上に混んでいたことです。特に、修学旅行や遠足と思われる近くの小学生や中高生の団体が多く、きっと引率の先生方も「いい教育の場として活用しようと頑張ったんだな」という印象を強く持ちました。未来のモビリティに触れる教育的な機会として、この展示会がしっかり機能していることを実感しました。

最先端と伝統が交差する展示

展示内容は、これからの未来を感じさせるものが中心でした。地球環境に優しい電動車、自動運転の技術、生成AIなどを搭載した最先端のコンセプトカーなど、技術の進歩を肌で感じることができました。同時に、一世を風靡した懐かしい名車やスーパーカーなどの展示にも老若男女を問わず人だかりができており、「自動車」という存在が持つ変わらぬ人気ぶりと、人々の熱い視線を感じることができました。

また、「モビリティ」と銘打たれている通り、車だけにとどまらず、様々な移動手段が展示されていました。特に、高齢化社会がますます進むことを考慮した移動手段などの展示は目を引きました。

その多くの展示の中で、個人的に最大の収穫だったのは、マツダの「SeDV(Self-empowerment Driving Vehicle)」の実物と対面できたことです。以前、別の展示会で高齢ドライバー問題に関する講演に参加し、この技術が紹介されていて非常に興味を持ち、ブログでも一度紹介したことがありました。実物を見てみたいと切望していましたが、「福祉用」という位置づけのため、街の販売店では通常展示されておらず、長らく気になっていた存在でした。しかも全国を飛び回っている車両らしく、なかなか対面できない貴重な機会、ということを伺い、まるで新幹線のドクターイエローに会ったような気分を味わうことができました。

待望の初対面の感想としては、「なかなか考えられた優れもの」というものでした。

  • アクセルの工夫:
    ハンドルの内側にアクセルが付いており、ハンドル操作中もアクセルを踏んでいる状態を維持するための工夫等が施されていました。
  • 共用性の配慮:
    足が不自由ではない家族とも車両を共用できるよう工夫されており、様々な意見を取り入れながら完成したことが想像できました。

同時に感じたのは、この車両を乗りこなすためには「ある程度の訓練が必要かな」という点です。ハンドル内側にあるアクセルは可動範囲がそれほど大きくないものの、左にある手動ブレーキは可動範囲が大きく、どれだけ動かせばどのように効くのか、という慣れが必要だと感じました。

当日説明してくださった方と意見交換をさせていただき「福祉用の車両を、本来の目的ではないかもしれないが、アクセルとブレーキの踏み間違いが多い高齢ドライバー用として活用する」という発想は新鮮だったようです。いずれにしても、安全を第一に考えるマツダの思想が詰まった車両をみることができたことは、今回の最大の収穫でした。

車社会の未来を考える講演会

展示会に足を運ぶことはもちろん展示物を見るのも楽しみですが、個人的には関連する講演を聞いて見聞を広めることにも大きな関心があります。今回もいくつかの講演を聞くことができ、今後の事業の参考になるような貴重な情報を得ることができました。

未来からの逆算 SFプロトタイピングの考え方
興味深かったのは「SFプロトタイピング」という考え方です。これは、現実の延長線上で車の未来を考えるのではなく、想像する未来(例えば2050年)の姿からやるべきことを考えるというアプローチで、事業計画における「バックキャスト」と同じ発想かな、と感じました。

「人間が想像できることは人間が必ず実現できる」というジュール・ヴェルヌの言葉も引用され、2050年というと25年も先ですが、21世紀が始まった2000年から今までがあっという間だったように、これからの25年もあっという間であり、開発に時間を要する自動車では、今から種を蒔くことが大切という説明に、一種の引き締まった気持ちを感じることができました。

地方の救世主 自動運転のルーラルエリア導入
自動運転については、高齢化率が40%に迫ろうとしている現代において、ルーラルエリア(地方)への導入は不可欠という講演がありました。技術自体は確実に進歩しており、当該エリアでは歓迎されている状況とのことです。

しかし、現在はまだコストが高い「一品もの」の状態であり、必ず求められる「採算性」が普及のネックになっているとの話もありました。採算性をクリアするためには、ある程度のボリューム(量産)が必要です。コスト以外にも、品質や納期の問題もクリアしなければなりません。

ただし、自動運転は人間よりも広い視野を持って確認しながら移動しているため、「ある意味、人間よりも安全」という側面もあるとのことです。自動運転が普及すれば、「家が動く」ような感覚で移動の概念が変わり、移動中にできることが増えるというメリットも増します。量産化をカギとして、自動運転を早く普及させ、それらを使いこなすアクティブな高齢者がいるルーラルエリアを作っていきたいという強い意欲が感じられました。

「かもしれない運転」の再認識 事故削減の限界と技術の過信
自動車事故による歩行者などの犠牲者が依然として多いという現状に対する講演もありました。主な原因はドライバーによる「見落とし」とのこと。衝突被害軽減ブレーキなどの技術開発・導入により、事故の約6割は削減可能とされています。しかし、残りの4割が防げないのは、車が急には止まれないからです。

講演では、「ドライバーは見えないものを見えるようにする」ための技術開発も進めている、との説明がありました。同時に、世の中には衝突軽減ブレーキがあるから車が止まってくれる、衝突しない、と技術を変に「過信・誤解」している人が多いことが指摘され、この認識の修正が必要であると強調されました。

新技術や安全性能のある車を選ぶことは重要です。衝突被害軽減ブレーキとドライバーモニタリングシステムなどが安全のキーになると考えられます。しかし、それらを過信せず「かもしれない運転」の励行や、漫然運転を無くすことが必要不可欠です。その他にも、他車との通信によるV2X(「Vehicle to X」(読み方:ビークル トゥ エックス)の略で、車と周りのものをつなげる技術のこと)技術や危険予知の技術も進展しているとのことで、安全への追求に終わりがないことを再認識しました。

モビリティショーから見る未来への決意

日本の国民の約1割が自動車関連市場に関わっていると試算されており、この産業は日本の柱の一つです。しかし、自動車市場を支えてきた団塊の世代がこれから大量に運転を卒業すると、その維持が危ぶまれる可能性があります。

また、それとは別の原因として、ガソリンスタンドの数が減っているという話もありました。ガソリン車の減少が一因でしょうが、自動車の簡単なメンテナンスをしてくれる場所としての機能がなくなる影響も懸念されます。特にルーラルエリアほどガソリンスタンド減少の傾向が強いとなると、「自動車が必須なエリアなのに、給油や整備ができない」という問題に繋がりかねません。

将来に向けて様々な問題が山積する自動車市場ではありますが、今回の展示会からは「まだまだ元気いっぱい」という印象を強く受けました。驚いたのは、展示スペースの広さです。今回は東京ビッグサイトのほぼすべての展示スペース(一部工事中の箇所は除く)を使って、大々的に実施されていました。

普段、複数の展示会が同時開催されている場合、目当ての会場に行くまでに歩き回ることが多かったのですが、今回は普段使っていないような扉が開放されていたため、会場間の移動がスムーズで、「こんなルートがあったのか」「こんな近道があったのか」という発見が多くありました。改めて、自動車業界がこのイベントにかける力の入れようと、その底力を感じることができました。

そして、会場の熱気や来場者の関心の高さを肌で感じ、これらの人たちに支えられ、自動車市場を盛り上げていくためには、「安全運転が欠かせない、それが前提条件だ」という気持ちを新たにしました。

講演の中で紹介された、子どもの手のひらに書かれた「Our future in your mind(私たちの未来は、あなたたち次第だ)」という写真の言葉が強く印象に残っています。私はこの言葉をあえて「Your future in our mind(あなたたちの明るい未来は、私たち次第だ)」と言い換え、それをしっかりと自分たちに言い聞かせながら、少しでも将来を見据えた安全な社会の実現に向けて、「我が事」として取り組んでいきたいと強く感じました。

SeDVの写真

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