「煽り運転」根絶のヒントがドイツに?!日本人らしく「いいとこどり」で問題解消できるか

煽り運転のイメージ図

昨日のブログで『うちの父が運転をやめません』を取り上げました。その中で、ドイツの自動車事情に触れられた記述があり、事実確認のために高校時代の友人に連絡を取ったところ、興味深い発言を聞きました。

彼女いわく、「ドイツの人はどの車線にいても、自分が車線変更したいかどうかだけでなく、人がどうしたそうか、そのために自分はどう動くか、も考えています」とのことでした。さらに、「常に1キロ先と1キロ後ろを見てるかなぁ」とも。

ドイツに行ったことがない身としては、日本のようにカーブが多い地形では前後1キロを視野に入れるのは難しいのではないか、と妙なツッコミが浮かぶ一方で、この考え方に金づちで頭を殴られたような衝撃を受けました。

運転は自分のため、という考えが少なからず私自身にあることを自覚しつつ、他者を考慮して運転するという発想には学ぶべき点が多いと感じました。この考え方が、もしかしたら日本の煽り運転防止にも役立つのではないか、という直感を得ました。

私の考え

ドイツの全てを真似る必要はないですが、他国の良いところを取り入れる柔軟性は日本人の良さでもあります。特に「発想」という部分だけでも取り入れる価値があるのではないでしょうか。

煽り運転の原因として、私が日頃運転をしていて感じるのは、わがままな運転です。それが煽られる原因を作っているのではないかと思います。もちろん、怒って煽る行為自体が問題であるのは事実ですが、そもそも怒りを誘発する行動がわがままな運転から来ている可能性があります。

そういう意味では、「周囲の人がどうしたいのか」という配慮の気持ちが第一、という発想は目からウロコでした。この発想を日本に取り入れることが、煽り運転の防止に繋がるのではないでしょうか。

ドイツにこのような考え方がある背景

1. 法律的背景とその歴史

ドイツでは、道路交通法(Straßenverkehrs-Ordnung, StVO)の第1条(これもすごい!)において、「相互の配慮」が明記されています。この規定では、すべての交通参加者が互いに注意を払い、危険を回避し、円滑な交通を確保する義務を負っています。この法律は第二次世界大戦後、道路網の再整備とともに整備されたもので、車社会の成長に伴い、個人の権利と公共の安全の調和を目指して作られた歴史があります。

なお、この第1条の具体的な条文については、詳細をブログの最後に記載していますので、参考にしてください。

2. 習慣化の背景

法律があるだけでは徹底されないというのが日本の現状です。しかし、ドイツでは「相互の配慮」の精神が運転習慣として国民全体に浸透しています。この背景には、幼少期からの交通教育が影響しています。

ドイツの教育課程基準「教育スタンダード(Bildungsstandard)」において、社会的コンピテンシー(Sozialkompetenz)が重要な要素として位置づけられています。この点について、田中達也『ドイツにおける教育改革の現状―ハンブルク市を中心に―』(佛教大学教育学部学会紀要 第9号、2010年)に以下のような記述があります。

『ドイツの教育において、社会的コンピテンシーは極めて重要視されており、特に交通教育においても、個人が社会の一員として行動するための指針となっている。』

3. 教育・文化的背景

ドイツでは、子供の頃から「他者を考える」教育が徹底されています。例えば、自転車や歩行者が優先される交通環境の中で育つことで、他者への配慮が自然と身に付きます。また、時間厳守の文化や合理的な思考が、交通マナーの高さにも繋がっています。

この教育の起源は、19世紀末から20世紀初頭にかけて進んだ学校教育改革にあります。この改革では、個人の責任感を育むことが教育の柱とされ、現在の交通教育にもその流れが影響しています。この点について、佐藤健『ドイツの市民教育―学校教育と社会参加の関係』(明石書店、2015年)に以下のような記述があります。

『ドイツの教育において、市民としての責任感を育むことが最も重要な目的の一つであり、その影響は交通ルールの遵守にも表れている。』

まとめ

日本の道路交通法を改正しろ、と主張するのは簡単ですが、それには時間がかかります。その間にも煽り運転は続き、被害者が増える可能性があります。そのため、期待すべきは運転者ひとりひとりの意識改革です。

ドイツの人々は、法的な規制があるだけでなく、それを内面から納得し、「相互の配慮」を自ら進んで行動に移しています。これにより、安全でスムーズな交通環境が形成されているのです。

このエッセンスを日本も学び、取り入れることは決して恥ずかしいことではありません。焦る気持ちが煽り運転を誘発しているのかもしれませんが、小説『うちの父が運転をやめません』の中でも「せまい日本そんなに急いでどこに行く」という懐かしいスローガンが紹介されていました。今こそ改めて運転について考えるときなのかもしれません。ゆとりある運転や時間に余裕を持つことこそが、日本人の美徳である「急がば回れ」を実現する鍵だと思います。

煽り運転を防止するためには、ドライバー全員が「自分だけでなく、周囲を考える」意識を持つことが重要です。そのための第一歩として、ドイツの運転習慣から煽り運転以外にも、学べることは多いのではないでしょうか。

参考: ドイツの交通法・教育に関する資料

ドイツ道路交通法 第1条(原文・日本語訳):

§1 Grundregeln

  1. Die Teilnahme am Straßenverkehr erfordert ständige Vorsicht und gegenseitige Rücksicht.
  2. Wer am Verkehr teilnimmt, hat sich so zu verhalten, dass kein Anderer geschädigt, gefährdet oder mehr, als nach den Umständen unvermeidbar, behindert oder belästigt wird.

日本語訳:

第1条 基本原則

  1. 道路交通への参加には、常に注意と相互の配慮が求められる。
  2. 交通に参加する者は、他者を傷つけたり、危険にさらしたり、必要以上に妨害したり、不当に迷惑をかけたりしないように行動しなければならない。

教育・文化に関する参考文献:

田中達也『ドイツにおける教育改革の現状―ハンブルク市を中心に―』(佛教大学教育学部学会紀要 第9号、2010年)

佐藤健『ドイツの市民教育―学校教育と社会参加の関係』(明石書店、2015年)

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