免許返納に関する話し合いの泥沼状態をモデル化!これができたら問題解決は不可能ではない!

高齢ドライバーによる運転事故がニュース等で報じられる度に「お父さん、危ないから運転免許を返して」「何を言うか、ワシはまだ現役だ。余計なお世話だ!」こうした家庭内のやり取りが日本中のあちこちで繰り返されているのではないでしょうか。

家族は高齢ドライバーである親の平穏な生活を願って必死に説得し、当の本人は自由と尊厳を守り、子どもには迷惑をかけたくない、との気持ちから必死に抵抗する。お互いに「相手を大切にしたい」という善意の思いやる気持ちから発せられた言葉であるはずなのに、話し合いを重ねれば重ねるほど、お互いに不信感が募って、最後には口もきかない「冷戦状態」に陥ってしまう、ということにもなりかねません。

これは単なる「親子喧嘩」とは思えません。実は、そこには人間が陥りやすい「罠」が潜んでいるのではないか、と考えました。なぜ、言葉を尽くせば尽くすほど、問題解決から遠ざかってしまうのでしょうか。その正体を知り、みなさんにもわかるように説明し、解決したいと考えて、経済学や心理学で使われる考え方を紐解いてみましたので、ご紹介させていただきます。

誰もが今の場所から動けなくなる罠「ナッシュ均衡」

高齢ドライバーが免許返納するかどうかで家族と対立している状態は一種の「ナッシュ均衡」に陥っている、と言えます。ちょっと専門用語になり、聞いたことがない方が大半だと思いますので、ごく簡単に説明すると「相手が今の考えを変えない限り、自分だけが考えを変えると『損』をしてしまうため、最悪な状況だと分かっていても、誰もが今の考えに留まり続けてしまう現象」のことを指します。

つまり「相手とは仲良くしたいけれど、自分だけが先に歩み寄ったら、相手に付け込まれてひどい目に遭わされるかもしれない」と考える心理が働く、ということです。そう思うと、誰もがためらって最初の一歩が踏み出せなくなってしまいます。この「相手の言い分はわかるけれど、自らが折れるのが最もリスクが高い」と考える心理状態こそが、今の免許返納問題が抱えている課題の本質なのではないでしょうか。

家庭内で起きている「損得勘定」のバグ

では、この「お互いに動けない状態」を、お互いの損得(満足度)という視点で具体的に紐解いてみましょう。ここでは分かりやすく、満足度を点数(0~1点)で表してみます。もし、家族が高齢ドライバーである親に「免許返納一辺倒(強硬手段)」で攻めてくるとしましょう。このとき、高齢ドライバーの頭の中では次のような計算が無意識に働きます。

  • 【抵抗する(1点)】:
    家族とは険悪になるが、少なくとも「運転する自由」は死守できる。
  • 【素直に認める(0点)】:
    自らの年齢的な衰えを認めた瞬間に、有無を言わさず免許を取り上げられ、生活の足も尊厳もすべて失う。

高齢ドライバーにとって「0点」は何としても避けたい最悪の結果です。だから、たとえ家族との関係が悪化したとしても、「抵抗し続けること」が本人にとっての唯一の正解になってしまいます。

一方で家族側も同じです。

  • 【厳しく攻める(1点)】:
    高齢ドライバーである親に嫌われるが、免許返納でとりあえず事故のリスクを抑え込める。
  • 【優しく見守る(0点)】:
    高齢ドライバーである親の機嫌は良くなるが、その隙に事故を起こされたら一生後悔する。

こうして、双方が「自分だけが損をする(0点になる)」ことを防ごうと必死に防衛線を張った結果、家庭内の雰囲気が最悪なのに、誰もそこから抜け出せないという「不信感の均衡」が完成してしまうのです。これが、今の免許返納問題の残酷な実態です。

必要なのは「説得」ではなく「ゲームチェンジ」

「親が頑固だからいけない」「家族の言い方がきついからだ」といった犯人捜しをしても、この問題は解決しません。なぜなら、原因は個人の性格ではなく、この「損得の配点(構造)」そのものにあるからです。

ナッシュ均衡という泥沼に一度ハマってしまうと、言葉の説得だけではそこから抜け出すことは不可能です。どちらかが勇気を出して一歩譲ったとしても、その瞬間に相手に「独り勝ち」を与え、自分は「一方的な損失」を被る恐れがあるからです。

これはまさに問題解決のツールとして使われる「ゲーム理論」の典型的な例です。そして、ゲーム理論の世界では、この「お互いのためを思っているのに、自分の身を守ろうとするあまり結果として対立し合ってしまう」という悲劇を「囚人のジレンマ」というモデルで説明し、そこからの脱出方法をしっかり教えてくれています。

このジレンマから抜け出し、本来同じ目的地を目指しているはずの家族が再び足並みを揃えるためには、お互いの役割を調整する「コーディネーション(お互いの足並みを揃えて、共通の目標を達成しようとすること)」が必要です。

その鍵は、意外なほどシンプルです。ゲーム理論ではこのような状態を回避するために必要なのは「ゲームチェンジ(ルールの書き換え)」だと説明しています。それは、相手を言い負かすのではなく、お互いが「協力したほうが、自分にとっても得だ」と心から納得できる新しい選択肢をテーブルに乗せることです。

この続きは次回ブログで!

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