第1回:運転をやめると8倍のリスクが?高齢者の運転が生活に与える影響とは

リスク上昇の図

「運転をやめると要介護になるリスクが8倍に増える」。この数字は、国立長寿医療研究センターの調査結果から得られたもので、運転中止が高齢者の生活に与える重大な影響を示しています(出典:国立長寿医療研究センター「運転と高齢者の健康に関する研究」)。免許返納を考える高齢ドライバーと家族にとって、この数字は大きな意味を持つのではないでしょうか。なぜ運転をやめるとこれほどまでにリスクが高まるのか、その背景に迫ってみましょう。

運転の役割とは?移動手段以上の「生活の基盤」

運転は単なる移動手段を超えて、高齢者の生活基盤の一部となっています。運転は、買い物や病院への移動だけでなく、家族や友人との交流、趣味やレクリエーションのための外出手段でもあります。これによって、運転は身体的な利便性だけでなく、心の健康にも大きく影響を与えているのです。

特に地方では公共交通機関が限られているため、運転が外出の唯一の手段となることも多く、車があるからこそ生活圏が広がるという背景があります。運転をやめることで生活範囲が狭まり、他者との接触機会も減少し、結果として社会的な孤立感が強まりやすくなるのです。

運転によって得られる「頭と体の総合的な刺激」

運転は視覚、聴覚、判断力、瞬時の反応といった複数の認知機能をフルに活用する行為です。具体的には、前方や左右の確認、信号や標識の読み取り、速度や進路の調整を絶え間なく行います。運転中は複数の状況に対する判断や即時対応が求められ、結果的に脳と体が連携して働くことになります。

1時間の運転で、私たちの体と脳にはさまざまな負荷と刺激がかかっています。たとえば、視覚的な情報を読み取って判断する力、さらに運転中の複雑な状況を瞬時に判断する力が刺激されます。高齢者にとって、運転は日常生活で得られる貴重な頭と体の刺激の場ともいえるのです。

運転中止でリスクが高まる理由

運転を続けていることで心身の活力や判断力が維持されると同時に、外出機会も増え、社会的な交流も活発になります。しかし、運転をやめるとこれらの複合的な刺激が一度に失われ、結果として筋力や認知機能の低下が進む可能性が高まります。また、運転中止後は家に閉じこもりがちになり、結果として健康状態の悪化や要介護状態に至るリスクが増加します。

運転が生きがいの一部である場合もあり、運転をやめることで生活に対する意欲が減退し、活動量が減少することもリスクの要因です。運転が生活において大きな役割を担っていた場合、その喪失感も少なくありません。これらが、要介護状態へのリスクが8倍になる背景と言えるでしょう。

運転を補うための工夫は可能か

運転の代わりに、日常生活の中でウォーキングや簡単なスポーツ、知的活動を組み合わせることで、運転がもたらしていた刺激をある程度補完することが可能です。運転をやめても健康を維持するためには、意識的に日常生活の中で活動量を確保し、他者と交流する機会を増やす工夫が必要です。しかし、すべてのリスクを完全に回避できるわけではなく、あくまでも「リスクの緩和」として考えることが重要です。

次回は、具体的に運転しない生活でどのように要介護リスクを抑える工夫ができるか、現実的な対策についてご紹介します。

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