自動運転は運転に関するすべての問題の解決策になりえるのか—それともあらたな問題を誘引するのか?

本日まで開催中のオートモーティブワールド2025に参加し、「高齢化社会におけるモビリティの価値創造」というセッションを聴講してきました。このセッションの中で、高齢ドライバーの問題に関する多くの情報を得ることができました。その一部を今回と次回のブログで紹介し、皆さんとともに考えてみたいと思います。
自動運転は運転に関する問題解決の万能薬ではない
これまで、「将来、自動運転化が進めば、高齢ドライバーの運転に関する問題はすべて解決できる」と考えていました。そして毎日のように発生している衝突事故や道路の逆走等の問題には、免許返納を進めることが重要だと。そのためにも代替えの移動手段となる公共機関の整備が急がれ、その切り札となるのが自動運転の普及、これしかない、と私自身も考えていました。しかし、今回のセッションを通じて、自動運転も運転に関するすべての問題解決の手段として万能ではないこと、そして自動運転の普及が進む将来でも「自分で運転をしたい」というニーズが残るだろう、ということに気づかされました。
運転が趣味であり楽しみである人々にとって、自動運転車は単なる移動手段でしかなく、ニーズとしては十分ではありません。また、高齢ドライバーの場合、運転が認知症の進行を防ぐ可能性があり、この効果を損なわない形で安全性を確保する技術があれば、健康と安全の両方の問題を解決することができそうです。つまり、将来の車は完全に自動運転化する/しないではなくその中間にある選択肢が現実的であり、事故を抑制しつつ運転の楽しさを維持する技術の開発が鍵を握っている、と強く感じました。
それらを裏付ける情報
- 筑波大学の研究 筑波大学の研究によれば、運転を中止した高齢者は、運転を継続している高齢者と比較して、要介護認定のリスクが約2倍に上昇することが報告されています。さらに、運転を中止しても公共交通機関や自転車を利用している人は、そのリスクが約1.7倍に抑えられるとされています。 出典: JAGESプレスリリース
- 日本老年学会の報告書 日本老年学会は、高齢者の自動車運転に関する報告書を公表し、高齢者の身体的・認知的機能の評価や再訓練、そしてテクノロジーの活用による事故削減の重要性を指摘しています。これにより、高齢者が生活・活動範囲を維持し、住み慣れた地域で長く暮らせることを目指しています。 出典: 日本老年学会報告書
- マツダの「ドライバー異常時対応システム(DEA)」 マツダは、運転者の異常を検知し、車両を安全に減速・停止させる「ドライバー異常時対応システム(DEA)」を開発しています。このシステムにより、運転の楽しさを維持しつつ、安全性を高めることが可能となります。 出典: マツダ公式サイト
まとめ
自動運転は、高齢ドライバーの免許返納問題の解決策の一つとして期待されています。しかし、「運転をしたい」というニーズを無視してはいけません。免許返納する/しないという単純な二択で高齢ドライバーの問題を考えるのではなく、運転の楽しさと安全を両立する技術を活用することで、より包括的な解決策が見えてくると感じました。
そして、メーカーもすでにこうした課題解決に向けた取り組みを進めています。マツダのように「運転の楽しさ」と「事故の抑制」を両立させる技術を開発している企業も存在します。車が好きな人にとって、このような未来は希望に満ちたものと言えるでしょう。安心して車を楽しむ未来に向けて、さらなる技術革新を期待したいものです。