活かせ!東日本大震災の教訓 BCPの発想が有名人の夢の実現を後押ししている事実

2011年3月11日14時46分。私は出張先の仙台で東日本大震災を経験しました。揺れが収まった後、ビルから出ると、道は歪み、ビルにはひびが入り、街は停電し、新幹線は完全にストップしていました。
すぐに会社や家族へ無事を伝えようと携帯電話を手に取りましたが、何度かけても話し中でつながりません。バッテリーがみるみる減っていくのを見て、「いざというときに連絡が取れなくなる」と焦りました。そこで、先方からの着信に備えて、これ以上無駄に電話をかけるのをやめることにしました。この経験を通じて、モバイルバッテリーなどの備えを常に持ち歩くことの重要性を痛感しました。
震災以降、職場ではBCP(事業継続計画)の必要性が叫ばれるようになりました。BCPは企業が災害や危機に直面した際に、業務を継続または早期に復旧させるための計画です。その重要性を考えると、この考え方は企業経営だけでなく、様々な分野に応用できるのではないかと感じるようになりました。
BCPの発想を運転の世界へ
BCPの基本概念は、
- あるべき姿(災害等発生時に重要な業務を迅速かつ効果的に維持・早期復旧する状態)
- 現状(事業の遅延・中断が産業構造全体に大きな影響を及ぼす状態)
このギャップを分析し、優先順位をつけてそれを埋めることにある、と考えています。この考え方は、車の運転にも応用できるのではないでしょうか。
たとえば、高齢ドライバーが「運転を続けたい」と考えるのは一種の”あるべき姿”であり、一方で家族は「運転を続けることにリスクがある」として返納を促すのが”現状”です。このような家庭内の免許の問題に端を発する対立構造は、BCPにおいて事業者が理想の業務継続を求める一方で、災害などの現実的なリスクに直面した構図とよく似ています。
そこで、BCPのB(Business)をD(Driving)に置き換えた「DCP(運転継続計画)」という考え方を私たちは提案しています。DCPを活用することで、高齢ドライバーと家族が計画的に安全運転を継続する方法を考え、より良い選択ができるようになります。
BCPの応用例
① 青山学院大学・原晋監督の戦略的アプローチ
青山学院大学の駅伝チームでは、原晋監督が「大学駅伝界の常勝チームになる」というあるべき姿を掲げ、その達成のために戦略的シミュレーションを重視しています。過去のレースデータを詳細に分析し、選手ごとのコンディションや走力を考慮しながら、最適なトレーニングプログラムを構築。さらに、区間配置やライバル校の戦略を踏まえたシミュレーションを行い、レース本番で最大限のパフォーマンスを発揮できるよう計画を立てています。これはBCPと同じく、理想(常勝チーム)と現状(選手の能力や戦力)を比較し、そのギャップを埋めるための継続的な計画を策定するアプローチです。DCPにおいても、高齢ドライバーが自身の現状を正確に把握し、安全に運転を継続できるための方法を計画する点で共通しています。
参考文献:原晋 『逆転のメソッドー箱根駅伝もビジネスも一緒です』 (祥伝社、2015年)、
② 大谷翔平選手の計画的アプローチ
大谷翔平選手は、「ドラフト1位 8球団指名」と「メジャーリーグで成功する」という二つのあるべき姿を掲げ、その達成のために必要な要素を細分化し、体系的に計画を立てるためのツールとして「マンダラチャート」を活用しました。これは有名な話ですが、このチャートでは、目標達成のために必要なスキルや課題を9つに分解し、それぞれをさらに詳細なアクションプランとして整理し、計画的に取り組みました。そして、その目標を達成したのはご存知の通りです。これはBCPが業務継続のために詳細なリスク管理と計画立案を行うのと同様に、DCPにおいても「安全運転を続ける」という目標を達成するために、運転技術の維持、健康管理、家族との話し合いなどの要素を整理し、計画的に取り組むことが重要である点で共通しています。
参考文献:大谷翔平 『不可能を可能にする 大谷翔平120の思考』 (ぴあ、2017年)、
佐々木亨『道ひらく、海わたる:大谷翔平の素顔』(扶桑社、2018年)
最後に
東日本大震災以来、「万が一に備える意識」は高まりました。避難訓練、家庭内の備蓄、安否確認方法の家庭内での共有など、多くの対策が講じられています。しかし、これらも時間が経つと、その意識は徐々に薄れがちです。
この傾向は、免許返納問題にも共通しています。高齢ドライバーによる大きな事故が発生すると一時的に関心が高まり、一種の“覚悟”のようなものをみなさんは考えますが、日常に戻るとそれらは忘れ去られることが少なくありません。そのため、その“覚悟”を何らかの形で書き留め、それを定期的に見直せるようにすることが重要です。これにより、問題意識が風化するのを防ぐことができます。
“覚悟”は一般的に未来を見据えたものであり、具体的に何をするか、を考えるものになることが多いと思います。しかし、この過程で注意すべきことがあります。それは、これまでの過去の経験や教訓を無視し、安易にやりやすい内容を選んでしまうことがあります。それは、その方が簡単だからです。ある程度のレベルを超えると未知の領域に入り、これまで誰も実施していない領域に達してしまうからです。我々はそこで立ち止まるのではなく、想像力を働かせることで、未知の領域にも対応することが可能になります。
これまでの経験を土台にし、決して後戻りをするのではなく、新たな知見を積み上げること。この積み上げるという行為を無視してしまうと、同じことを何度も繰り返し、進歩が止まってしまいます。その場しのぎの対応ではなく、これまで積み上げた経験を十分に生かしながら、新たな英知を加えていく、積み重ねていく。その姿勢こそが求められ、結果につながっていくと思います。