ちょっと待って!間違ってませんか?高齢者との接し方 免許返納を巡る議論の課題と対策

高齢ドライバーの運転を巡る問題は、多くの家庭で避けて通れないテーマです。親が「まだ運転できる」と主張し、子どもが「もう危ないのでは」と心配する——そんな対立が生まれやすいのは、それぞれが異なる視点から問題を見ているからです。
かつて私も、実母が運転を卒業する際にこの課題に直面しました。親だからこそ放っておけない気持ちと、親の自尊心の間で揺れ動く葛藤。親のためを思って発した言葉が反発を招き、話し合いにならない——そうした経験をされた方も多いのではないでしょうか。
しかし、そんな状況でも打開策はあります。それは、親の「内なる声」を聞く ことです。
「提案」ではなく「内なる声」を引き出す
家族として親のことを心配する気持ちから「こうしたらいいのでは?」と提案するのは自然なことです。しかし、その提案が親にとっては「自分の考えを否定された」と感じられることも少なくありません。
運転に関して親が何を大切に思い、どんな気持ちでハンドルを握っているのか——これまで深く聞いたことがあるでしょうか?
運転には、その人の人生の一部が詰まっています。初めて自分の車を手にしたときの喜び、家族を乗せて出かけた思い出、長年の運転経験への誇り。そうした「運転にまつわる記憶」を親が話す機会を持つことで、単なる技術の問題ではなく、親の価値観や思いを理解するきっかけになります。
親の「運転にまつわる記憶」を聞く
「今までどんなところに行った?」
「どんな車が一番気に入っていた?」
「運転していて一番楽しかったことは?」
こうした問いかけをすると、多くの親は堰を切ったように話し始めます。私の場合もそうでした。自分の運転人生を振り返りながら、これまでの経験を思い返すことで、「運転を続けること」だけが大切なのではなく、「安全に移動すること」自体が大事だと気付くこともあります。
また、親が話す中で「最近ちょっと運転がしんどくなってきた」「夜は見えづらい」といった本音が出ることもあります。これは、家族が一方的に伝えるよりも、親自身が気づいたほうが受け入れやすいのです。
親の「内なる声」を聞いた上で考える未来
運転の話を重ねるうちに、親がどんなことを大事に思っているのかが見えてきます。
・「自分で移動できなくなるのが怖い」
・「長年続けてきた運転を手放すのが寂しい」
・「運転することで自分の自立を守りたい」
このような気持ちを共有した上で、「じゃあ、これからどうする?」と一緒に考えることができます。
例えば、運転を続けるなら「どんな条件なら安全か?」を話し合い、運転継続計画を立てる。
もし免許返納を選ぶなら「車がなくても充実した生活を送るには?」と具体的な選択肢を一緒に考える。
一方的に「免許を返してほしい」と求めるのではなく、「親の思いを尊重しつつ、安全を一緒に考える」ことが大切です。
親子だからこそ伝わるもの
「親と子は、この地球上で最も濃密かつ深い人間関係の一つ」と言われます。親はかつて、子どもを育て、守り、支えてきました。そして今、年齢を重ねた親を、子どもが支える番になっています。
しかし、その過程で生じる意見の衝突は、「親子だからこそ何を言ってもいい」という無意識の前提が影響していることもあります。親子であっても、互いにリスペクト(尊敬の念)を持ち、お互いの考えを尊重することが、話し合いの出発点になります。
親が頑固に見えるのは、決して意固地になっているのではなく、自分の思いをどう伝えればよいか分からないからかもしれません。子どももまた、親のことを思うからこそ、心配するのです。
「運転の話」は、単なる免許返納の問題ではなく、親子の関係を見つめ直すいい機会にもなります。親の「内なる声」に耳を傾ける。そこから、よりよい対話が生まれることを願っています。