連鎖する高齢ドライバーの事故 問われる「運転者の自覚」と「北風と太陽」型対策の必要性

写真出典:https://www.kobe-np.co.jp/news/jiken/202511/0019668569.shtml
またも、高齢ドライバーによる痛ましい事故が発生しました。今回事故が発生したのは、少し前にも信用金庫に高齢ドライバーが突っ込むという事故があったばかりの兵庫県加古川市です。
この事故で、運転されていた高齢ドライバーの方がお亡くなりになったと聞き、心よりご冥福をお祈りいたします。同時に、ケガをされた皆様の少しでも早いご回復を心から願っております。
事故の原因究明が待たれるところですが、この手の詳細な情報は、しばしば個人情報として扱われるためか、結果的に世の中に広く公開されないことが多いのが現状と感じています。必要な情報がブラックボックス化することにより、事故防止のためのPDCAサイクルを回すことができず、結果として同じような悲劇を繰り返す原因になっている気がしてなりません。
当局の皆様の事情や、個人情報保護の重要性は理解できないわけではありません。しかし、事故の再発防止と社会全体の安全のためには、必要な情報を提供することの重要性もご理解いただけると感じます。再発防止に向けて、真綿で締めるように優しく対策を打つのではなく、時には鋭い刃物で危機感をあおり、社会の意識を変えるという戦法も、今こそ必要ではないかと考えます。データに基づき、冷静かつ具体的な対策を講じるためにも、透明性を持った情報公開こそが、現状を打破する第一歩となるのではないでしょうか。
加古川市多重事故の概要
今回の事故を報じられている情報から振り返り、データとして整理します。複数の情報が錯綜している部分もありますが、現時点で確認できる事実を客観的にまとめます。
発生日時:
2025年11月4日(月・振休)午後4時半ごろ
発生場所:
兵庫県加古川市加古川町友沢の国道250号線(片側3車線の直線道路)
事故概要:
国道250号の東行き車線で、乗用車など10台以上が絡む多重玉突き事故が発生しました。死亡した78歳の男性が運転する車が、この玉突き事故を拡大させた原因とみられています。報道によると、事故直前に同乗者から「運転中に意識を失っていた」との証言が得られており、運転不能の状態に陥ったことが事故の発端となった可能性が浮上しています。車両に搭載されていた通報機能(e-Call等)から消防に通報がありました。
被害内容:
死亡者: 1名(78歳・無職の男性運転者)
負傷者: 17名。うち、2~6歳の子ども4名が含まれています。負傷者のうち12名が病院に
搬送されましたが、いずれも意識はあるとのことです。
重傷者: 死亡した男性の同乗者1名(骨折などの重傷)。
事故原因(推定):
死亡した78歳の男性運転者が、運転中に意識を失った(急病を発症した)可能性が高いと推定されています。県警は、この運転不能の状態が事故に直結したとみて、詳しい状況を捜査しています。このケースは、操作ミスではなく、健康状態の急変による事故という、高齢ドライバー事故のもう一つの深刻な側面を示しています。
事故影響(法的な側面等):
事故は夕方の混み合う時間帯と重なり、現場周辺では深刻な渋滞が発生しました。警察による詳しい捜査が進められています。運転者が病気を発症していた可能性が高まったことで、高齢者における運転前の健康チェックや、持病を持つドライバーの運転継続に対する社会的な議論が再び高まることになると想定されます。
自己責任論?運転者の「健康の自覚」をどう促すか
今回の事故の原因が、高齢ドライバーが運転中に病気を発症し、それが事故につながった可能性が出てきたことは、非常に重い事実です。これまで私たちのブログではドライバーが健康面から自身の運転能力を見つめ直す必要性を訴えてきましたが、なかなか徹底しないのが現状です。その背景には、「健康は自己責任であり、不摂生等があっても他人に迷惑をかけるものではない」という考え方が深く浸透しているのではないか、と想定されます。
例えば、私の身近にも、親しい人が喫煙しているのを見て、健康のためにと禁煙を勧めることが少なくありません。その時の最も多い反応は、「自分自身のことだから放っておいてくれ」というものです。しかし、もし健康の状態が急変し、それが自分自身や家族が困るだけで済むならまだしも、他の車や歩行者を含む無関係の他人を巻き込んだ、取り返しのつかない事態にもなりかねない、という発想に乏しいように感じます。
バスや電車といった公共交通機関の運転手さんは、プロとしての教育を受けているため、プロとして健康診断を受ける等の自覚を持っています。しかし、一般のドライバーにはその自覚が薄く、もし運転中に体調を崩すと、同乗者だけではなく、他のドライバーや歩行者にも被害者が出るという認識が希薄な気がしてなりません。
これらの行動は、個人の特性の問題でもあり、誰か他人が強制的に意識を植え付ける、という種類のものではないと考えられます。しかし、随時、ハンドルを握る者として気を付けるべき内容を確認し、自覚を促す術があれば、状況は少しでも改善するのではないでしょうか。
私たちが着目しているのは、単なる運転技術の向上だけでなく、運転に対する内省(自覚)を促すアプローチでもあります。私たちが開発した「3Dカード」は、本来、運転の内的目的(なぜ安全運転をしたいのか)を見つけることが主な目的ですが、カードの使用により、自分自身には存在しない「運転の目的や目標になりうる考え方」にも接することができます。それらに触れることによって、ハンドルを握る者の自覚を促す、という大きな効果も期待できると考えています。身体的な健康だけでなく、精神的な自覚こそが、高齢ドライバー事故防止の鍵を握っているのではないでしょうか。
「免許返納」論から踏み出す「北風と太陽」アプローチ
高齢ドライバーによる事故が絶えないとき、その対策として「免許返納」という言葉が真っ先に頭をかすめます。確かに、高齢ドライバーが運転をやめてしまえば事故は防げます。しかし、これはあまりにも短絡的で、非現実的な発想に感じます。
これは、最近日本中で問題となっているクマによる被害を解決するために、「日本中のクマをすべて殺してしまえばいい」という発想に近いものです。この発想が非現実的であるように、高齢ドライバーの問題も、免許返納で一律に解決しようとするのは非現実的だと、だれもがご理解いただけるはずです。高齢者にとって、運転免許は生活の自由と尊厳を保つ生命線であることが少なくないからです。
このような状況でこそ、必要なのが「北風と太陽」の発想です。強制的に旅人の上着を脱がそうとするような「免許返納」が北風だとするならば、「太陽」は高齢ドライバーにどのようにアプローチするでしょうか。それは、自発的に、納得感をもって運転の必要性や危険性を考え、何をすべきか、を自分で判断させるような環境づくりだと考えます。
私たちは、決して短期的、短絡的に物事を解決しようと判断するのではなく、長い目で見て、冷静に考え、行動することこそが、この高齢ドライバー問題を一番効果的に解消できる道だと信じています。社会全体で、高齢ドライバーの不安と向き合い、自由と安全の両立を目指す「太陽」のような、多少時間がかかっても、効果的なアプローチこそが今、求められていると考えています。
