運転は手段か目的か?元上司との対話から明らかになった「内と外の目的」の存在

先日、会社員時代にお世話になった元上司と久しぶりに再会しました。今では中小企業診断士として独立され、多岐にわたる事業のアドバイスを行っていらっしゃいます。元部下という気安さもあり、私の事業についても時折、連絡を取ってはちゃっかりとアドバイスをいただいています。
私の事業の根幹は、「運転は移動する手段だが、運転寿命を延ばしたいと考えると、運転は手段から目的に変わる」という考えを広めることです。しかし、元上司は私のこの説明を聞くやいなや、その論理の核心を突いてきました。「『運転寿命を延ばしたい』という目的は、結局のところ『移動したい』という目的と変わらない。それでは説得力がないのではないか?」と。確かに、ここが私にとって最大のボトルネックだと感じていました。この部分を論理的に説明できれば、誰もがストンと腹落ちしてくれるはずなのに、これまでもこの説明をした際に「ん?」という反応を何度もいただいていました。まさに事業の「急所」なのだと思います。
元上司に痛いところを突かれて、その鋭さに感銘を受けつつも、この急所はしっかりと論理武装しなければ、足元をすくわれかねないというアドバイスとして胸に刻み込みました。この言葉は、事業の根幹を揺るがすかもしれないという危機感を私に与え、何としてでもこの課題を乗り越えなければならないという強い思いにつながりました。
「外的・内的」という新たな概念との出会い
世の中には、「手段と目的を取り違えるな」というアドバイスをよく聞きます。運転の場合も、多くの人にとって「移動するための手段」であることは間違いありません。しかし、私の中で、運転が「目的」にもなり得ると確信しているのも事実です。手段と目的が混同されやすいのは、両者の境界線が曖昧だからかもしれません。運転は、その両方の性質を併せ持つ稀有な存在なのかもしれない、と考える日々が続きました。そして、どうにかしてこの両者を区別し、スムーズに説明できるストーリーを組み立てられないかと試行錯誤を繰り返しましたが、どうしても無理な説明や不自然な飛躍が入り込み、行き詰まっていました。
そんな折、ふと思いついたのが、「外的」と「内的」という二つの概念でした。運転の目的には、大きく分けて二つの種類があるのではないかと考えたのです。一つは「移動するため」という目的、もう一つは「どんな運転をしたいか」という、私が提唱したいと思っている目的。この二つを、人間を境界として「外」と「内」に区別して定義すれば、論理的な説明が可能になるのではないか、という発想がひらめきました。この気づきにより、事業の根幹を揺るがす課題を乗り越えることができるのではないか、と考えました。
「外的目的」と「内的目的」を対比させる
この「内と外」の考え方を整理すると、以下のようになります。
【外的目的】
これは、人間と外部世界との関係性の中で生まれる、誰もが共通して持つ客観的な目的です。車の運転における「移動」がこれに当たります。買い物や通勤、旅行など、物理的な場所の移動や、社会的な役割を果たすことがこの目的の核となります。ほとんどの人が「運転の目的は?」と問われた際に答えるのは、この外的目的にあたります。
【内的目的】
一方で、これは運転という行為を通じて人間自身の内面に生まれる、主観的で個人的な目的です。具体的には、「他のドライバーの模範となるようなスマートな運転がしたい」という理想の自己像や、「運転を通じて家族に安心感を与えたい」という願い、「いつまでも自立した存在であり続けたい」という希望などです。これは、外側の世界では見えない、心の中にある目的です。
多くのドライバーは、外的目的に意識が集中し、内的目的についてはほとんど考えていません。しかし、この内的目的こそが、安全運転を支える「マインド」の強化に不可欠と考えます。なぜなら、内的目的を意識することは、「安全運転を続けたい」という自律的な動機を生み出し、その目的を果たそうとすると、結果として事故防止につながる可能性が高いからです。私たちが考えるツール(カード)は、この意識されてこなかった内的目的を呼び覚ます支援を行う役割を担い、高齢ドライバーだけでなく、すべてのドライバーの意識を変えることができると信じています。
弱い紐帯がもたらす事業へのヒント
最近学んだ言葉に「弱い紐帯(ちゅうたい)」というものがあります。これは、親しい友人や家族といった「強い紐帯」とは異なり、知人や顔見知りといった、緩やかな人間関係のつながりを指します。先日会った元上司との関係は、普段から頻繁に連絡を取り合うわけではありませんが、いざというときに相談に乗ってくれる、まさにこの「弱い紐帯」に当てはまるかもしれません。しかし、この弱い紐帯の関係だからこそ、私は上司とは異なる視点や価値観から、事業の根幹に関わる鋭いヒントをもらうことができたのだと思います。
強い関係で結ばれた人たちと支え合いながら、弱い関係も有効に活用することで、私たちはより多くの知見や可能性を得ることができます。今の私たちがこうして事業の課題を乗り越えようと奮闘できるのも、そうした多様な人々が周囲にいてくれるおかげです。自分自身の考え方をしっかり持ちつつも、周囲の方々の助言に真摯に耳を傾け、社会の課題を少しでも早く解決できるよう、これからも精進していきたいと思います。