3Dカード開発秘話 ~世の中の「変化を求めない分厚い壁」を乗り越えるチャレンジとその覚悟~

偉大な発明やヒット商品の裏側には、必ずと言っていいほど、まるでドラマのようなストーリーが存在するようです。それは、一筋縄ではいかない紆余曲折、波乱万丈なプロセスを経て、ようやく世の中に送り出されるまでの、熱意と葛藤の記録があるからです。

会社員時代、私は社内で行われる業務改善発表会の原稿についてアドバイスを求められた際に、常々伝えていたことがあります。それは「ドラマチックなストーリーに仕上げよう」ということです。いろいろと質問をすると、何の障害もなくスムーズに検討が進んだ平坦なストーリーだったわけではなく、つまずき、壁に阻まれ、足を引っ張る者と仲たがいしながらも、それらの困難を一つひとつクリアして結果を出したドラマチックな展開があったことがわかり、それをしっかり説明した方が、聴衆の心に強く響く、と考えていたからです。

こうしたアップダウンの激しい経験は、神様が人間に試練を与え「世の中そんなに甘くない」という現実を教えるためのイタズラなのだと思いますが、同時に、話を聞く側に大きな勇気と活力を与えてくれます。どんなに小さな創造活動にも、NHKの『プロジェクトX』のようなドラマがある、と言えるのだと思います。

しかし、最近耳にした話は、そうした創造活動を志す者にとって、避けて通れない現実を突きつけ、改めてその覚悟を求めるものでした。それは、以下の内容です。

  • 世の中は基本的に変化を求めていない むしろ非常に保守的である。
  • いままで存在しなかったような新規のアイデアやモノを見ると、例えそれが良いものであっても、「なぜこんなものを作ったのか」とすぐに否定的な反応が返ってくる。
  • 世の中にない新しい事業は、保守的な世の中にとって「余計なお世話」に見えてしまう。
  • いかなる創造活動も、その始まりは「破壊」に見えるものである。

私たちが開発した「3Dカード」も、まさにこの「世の中は保守的」という名の分厚い壁に挑む連続だった、と感じています。本ブログでは、この厳しい現実をしっかりと受け止めつつ、いかにしてこの3Dカードが誕生したのか、その知られざる秘話をまとめてみたいと思います。

高齢ドライバーの課題とマインドへのアプローチ

私たちが事業を始めるきっかけとなったのは、多発する高齢ドライバーによる事故、という社会問題でした。何とかして安全運転に資する対策を打ちたい、という強い思いが、事業の原点にありました。

この思いを周囲に話すと、多くの方から「運転技術の再教育が必要ではないか」「そもそも運転に適さない人は免許返納すべき」などの様々な意見をいただきました。これらの反応は、この問題に対する世の中の関心の高さを裏付けるものでした。と同時に、提供される意見はどれも、すでに大手事業者等が認識し、何かしらの対策を講じているものばかりでした。後発の私たち零細中小企業では、既存の取り組みの後塵を拝すだけで、なかなか差別化が図れず、事業としての継続は困難だと感じ、悩む日々が続きました。

そんな手探りの状態で、何かヒントになるものがないか、と高齢者が共通のターゲットとなる展示会を巡り、出会ったのが、日本アクティビティ協会が開催する講習会でした。その内容は、高齢者施設でのアクティビティやレクリエーションを体系的に開発・運営・管理する方法を学ぶというものでした。高齢ドライバーが安全運転をするための計画を立て、実行・管理するという私たちの事業構想と通じるものを感じ、参加することにしました。

そこで配布されたのが、人生の最期において大切なことを考え、伝え、共有するための「人生100年これからゲーム」というカードでした。これは高齢者の「マインドにアプローチする」という発想がその根底にあり、高齢ドライバーが安全に運転しようとする意識(マインド)の醸成にも応用できるのではないか、と直感しました。開発元に許可を得て、この仕組みを高齢ドライバー向けに応用し、安全運転に資するカードを作ろう、と決意したのです。

そのうえで改めて市場を分析すると、既存の安全対策の取り組みにおいて、この「高齢ドライバーの内的なマインドに働きかける部分」が手薄になっている実態が確認できました。その原因は、既存の事業者に「民事不介入」という考え方があり、個人の内面に深入りすることを避けているためではないか、と考えました。そこで、大手の事業者にできないことは、零細中小企業にとって大きなチャンスとなる、ということを確信し、私たちは、すぐにドライバー用カードの作成に着手しました。

悪戦苦闘のたたき台作り

いざカード開発に着手したはいいものの、それは悪戦苦闘の連続でした。

まず、カードの大きな枠組みとして4つのカテゴリーを設定しようと考えましたが「ドライバーのマインドを構成する4つの大分類」とは何か、という根本的な部分から躓きました。いろいろと試行錯誤を繰り返しましたが、考え方に偏りが生じ、なかなかまとまりません。いまどきの生成AIに相談しても、その結果に様々な問題点が見つかり、それを何度も突くと生成AIが思考停止に陥ってしまうこともしばしばでした。特に、MECE(もれなくダブりなく)の考え方を徹底しようとした結果、このカテゴリーの原型ができるまでに約1か月を要しました。

カテゴリーの検討以上に難航したのが、カードに記載する文章の内容です。ブレーンストーミングでは自分の志向に沿う内容なら思いつきますが、自分の考えとは異なる価値観や重要な視点が盛り込まれずに抜けていないか、という心配がつきまとい、作業は滞りがちでした。ここでも生成AIを壁打ち相手にし、ひたすら議論を繰り返してやっと文章を完成させました。

しかし、その苦心の作を友人や知人の高齢ドライバーに試してもらうと、「文字が多い」「文章が頭に入らない」「聞いている内容の真意がわかりにくい」といった苦言を多数いただくことになりました。それでも、そのうちの一人から「出資しようか」というありがたいコメントをいただくこともあり、私の気持ちを奮い立たせてくれました。カードの作りにはまだ粗さがあっても、その基本コンセプトには磨けば光る要素があることを教えてくれた、と感じ、天にも昇る気持ちになりました。

その後も様々な方々から意見をいただき、改良を重ねました。ある県警の方からは、「運転の内的な目的や目標の数はそれほど多くないはず。無理にカードの種類を多くするよりも、枚数を絞る発想も必要では」という、まさにこちらの気持ちを見透かされたような助言をいただきました。これが、現在の40枚というカード枚数に反映されています。また、高齢ドライバーの安全運転を推進するNPO法人のみなさんからは、単にカードを使えればいいだけでなく、エンターテイメント性、遊び心、ゲーム性が必要、というアドバイスや、このカードの発想は高齢ドライバーに限らず、若年層や自転車に乗る学生にも応用できるという貴重なヒントもいただきました。

こうしてカードのたたき台がまとまり、いよいよブラッシュアップの段階に入りました。ここではいかに多くの方に利用していただき、多くの意見を反映していくかが焦点となりました。

ブラッシュアップへの道のり

ブラッシュアップの段階で検討したのが、ターゲット層である高齢ドライバーにいかに多く使ってもらうか、でした。そこでアドバイスをいただいたのが、シルバー人材センターの協力です。仕事として依頼することで、お互いにとって理があると教えていただきました。しかし、最寄りのセンターに相談すると、免許保持者のデータベースがないため対応は難しいとの反応があり、頼みの綱を断たれたと落胆してしまいました。

最寄りが難しければと、東京都の「シルバー人材センターの活用事業」に関するチラシを見つけて相談したところ、大田区のシルバー人材センターが協力を申し出てくださり、やっとブラッシュアップの機会を得ることができました。

費用的な制約からご協力いただく人数は絞らせていただきましたが、募集定員を上回る応募があったと聞き、業務内容だけでなく、高齢ドライバーの事故報道に接するたびに何かを感じられていたのかもしれない、と勝手に想像しました。

検証には男女の高齢ドライバーのみなさんが参加し、様々な切り口でデータを得ることができました。最大の収穫は「内的な目的を発見できたか」「残ったカードの内容に納得感があるか」という質問に、7割の方から肯定的な回答をいただけたことです。

さらに、「漏れやダブりはなかったか」「わかりづらいカードはなかったか」といった情報も調査させていただきました。思いがけない指摘も多く、やはり第三者的な確認は必要だ、ということを改めて感じました。

また、3Dカードの目的は、究極の選択をさせることで運転する目的や目標を表面的に判断することを避け、心の奥底にある深層心理や真の価値観に働きかけることにあります。すべて選びたい、あるいはすべて選びたくないカードが手元にある状況でも、その中から究極の1枚を選ばなければならないシチュエーションこそ、その人の本音が出てくると考えたからです。そのため判断するのが難しい、という悲鳴にも似た声が多数聞かれ、その役割もしっかりはたしていたように感じました。

なお、一度も誰にも選ばれなかったカードは、何かしらの問題があるという仮説のもと、どんなカードが最終的に残ったか、というデータも集計しました。その結果、一度も選ばれないカードが存在し、それらは必要性を再検討し、他のカードと入れ替えたり、文章を再検討して魅力を高めたり、差別化を図る作業も行いました。その他にも「色がわかりづらい」「フリガナが必要」といった貴重なアドバイスも反映し、10月に3Dカードの第一版を無事にリリースすることができました。

3Dカードのポテンシャルと社会の選択肢

いったん完成した3Dカードは、現在様々な機会でご使用いただき、上々の反応を得ています。開発の際にいただいた意見を頂戴し、それを実物に反映した部分に関してコメントをいただくと、こちら側が得意満面に事情等を説明して、思わず「ドヤ顔」になっているのではないかと感じることもしばしばです。

こうして一旦3Dカードを完成させましたが、もちろん、これで終わりではありません。本と同じように、今後も改版を重ねていく予定です。時間が経ち、社会の考え方が変わる可能性もありますし、大きな事故がきっかけで世の中の意識がガラッと変わることもありえます。タイミングを見ながら、多くの方に利用していただき、そのフィードバックを参考に、文章の再検討やカード枚数の増加などを図りたいと思います。

また、このカードのポテンシャルは高齢ドライバーに留まりません。事故の多い若年層や自転車に乗る学生など「事故に気を付けるマインドの醸成」にこの3Dカードを活用し、一役買えると考えています。高齢ドライバー用と同時並行で開発することは難しいですが、時期を見て検討を開始したいと考えています。

それから、3Dカードの文章には、メッセージ性があるという特徴も重要です。安全運転を指導する専門家のみなさんが伝えたい「こんな運転をするといい」というメッセージを3Dカードに文章化することで、たとえ本人がそのカードを選択しなかったとしても、何度もカードに目を通すことで一種のサブリミナル効果を生み出すことが期待できる、と考えています。

そして、何よりも自信家が多い高齢ドライバーにとって、自身との対話から運転の目的や目標を見つけることは、従来の指導手法にはなかった画期的な方法であり、データ的にも7割の方に「発見できた」「納得感があった」と回答していることがこれを立証しています。従来の高齢ドライバー事故対策の効果等に関するデータが見当たらず、単純な比較はできませんが、これだけの満足率を得られたことは、この手法の確かな効果を示すものだと自負しています。

最期に、私たちは世の中に「余計なことをせず、高齢ドライバーには免許返納をしてもらえばいい」という意見が多数あることは承知しています。しかし、問題解決の選択肢が「免許返納」の一択しかないというのは、あまりにも味気ないのではないでしょうか。対極にある選択肢(免許を返納せず安全な運転を続ける)も含め、高齢ドライバー本人やその家族等が積極的にどちらかを選び、その選択に必要な責任を負うことが、社会としてあるべき姿だと考えます。

最近はニュース等を見てると、日本の様々な指標における順位が低くなり、他国に比べて落ちぶれたと嘆く意見が聞かれますが、それは他国の頑張りによるもの。それはそれでいいと思いますが、もし私たちが順位にこだわる指標が一つあるとしたら、それは「国民の幸福度」だと考えています。現在、日本の順位は60位前後と、上位には多くの国がいますが、逆に言えば、ここから少しずつ順位を上げていく絶好のポジションにいる、と考えられます。この調査に自動車の運転に関する直接的な設問項目はないとしても、自分の選択で自分の人生を切り開くことができる要素をひとつでも増やすことは、間違いなく日本の幸福度が上がると思います。

そのためにも、高齢ドライバーだけでなく、その家族や友人も含め、この問題をどう解決したらいいのか、一緒に議論していく場に、この3Dカードがお役に立てることを願っています。

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