神様に与えられた”試練”を”楽しむ”?!高齢ドライバーと家族の対話 その「受動的アプローチ」

試練を乗り越える、のイメージ図

最近、いろいろな場面で「主体性に欠け、受け身の姿勢の人が多くないか」という話を耳にします。しかし、家族という「勝手知ったる」コミュニティでは、むしろ能動的な行動が多く、逆に受動的な姿勢をとることが難しいという実態があるのではないでしょうか。そういう私も実母との喧嘩の原因もここにあるのでは? と自分自身反省しています。

心理学では、「家族システム理論」という考え方があります。この理論によると、家族は相互に影響し合う複雑なシステムであり、一人の行動が他の家族メンバーに波及効果を及ぼすとされています。そして、家族内では能動的な行動が連鎖的に起こりやすく、受動的な姿勢をとることが難しくなる可能性があるそうです。

前回は「能動的アプローチ」について述べましたが、今回は「受動的アプローチ」に焦点を当てます。実は、この受動的な対応こそが難しく、これを克服さえできれば、免許返納の問題解決がよりスムーズに進むと考えています。

高齢ドライバーが家族の意見に対して取るべき受動的姿勢

高齢ドライバーの方々は、家族との対話において以下のような受動的姿勢を心がけることが大切だと考えています。

まず、家族の意見を批判せずに傾聴することが重要です。日本の精神科医、作家、教育評論家として広く知られている和田秀樹氏は「傾聴の重要性」を強調しています。家族の意見を遮ることなく、最後まで聞くことで、相手の真意を理解することができます。この際、相手の話を聞きながら、うなずいたり、「なるほど」と相づちを打つことで、真剣に聞いていることを伝えられます。

次に、感情的にならず、冷静に対応することが大切です。失敗学の権威として知られる工学博士で、東京大学名誉教授の畑村洋太郎氏の「失敗学」の観点からも、感情的になることは建設的な対話の「失敗」につながります。冷静さを保つことで、より客観的な判断が可能になります。もし、感情的になりそうな時は、深呼吸をしたり、一旦話題を変えるなど、自分なりのクールダウン方法を見つけておくと良いでしょう。

また、家族の提案を一度受け入れてみる姿勢も重要です。訪問看護・リハビリ・デイサービスを提供する企業の創業者で、25年間で18万人以上の患者を診察した経験を持つ萩原礼紀(はぎわら れいき)氏は「柔軟な姿勢の重要性」を指摘しています。家族の提案を試してみることで、新たな気づきが得られる可能性があります。「一週間だけ試してみよう」など、期限を決めて試すことで、抵抗感を減らすことができます。

さらに、家族が表現する不安や心配に耳を傾けることも大切です。和田秀樹氏は「感情の適切な受容」の重要性を説いています。家族の気持ちを受け止めることで、相互理解を深めることができます。家族が「〇〇が心配なんだ」と具体的に伝えてきた際には、その気持ちを理解し、共感的に受け止めることが大切です。

最後に、専門家の意見を受け入れる姿勢を持つことが重要です。畑村洋太郎氏は「専門知識の重要性」を強調しています。医師や専門家の意見を謙虚に受け入れる姿勢が、問題解決への近道となることがあります。専門家の意見を聞く際は、メモを取るなどして、後で家族と一緒に振り返れるようにしておくと良いでしょう。

家族が高齢ドライバーの意見に対して取るべき受動的姿勢

一方、家族の側も高齢ドライバーとの対話において、以下のような受動的姿勢を心がけることが大切です。

まず、高齢者の経験や知恵を尊重することが重要です。萩原礼紀氏は「高齢者の知恵の価値」を指摘しています。長年の経験に基づく高齢者の意見を尊重することで、より深い理解が得られる可能性があります。「そういう経験があったんですね」と相手の経験を肯定的に受け止めることで、高齢者は自分の価値を再確認できます。

次に、高齢者の感情を受け止めることが大切です。和田秀樹氏は「感情の受容」の重要性を説いています。高齢者の不安や怒りを否定せず、受け止めることで、信頼関係を築くことができます。「そう感じるのは当然ですね」と共感の言葉を添えることで、高齢者は理解されていると感じやすくなります。

また、急かさず、高齢者のペースを尊重することも重要です。畑村洋太郎氏の「プロセス重視」の考えに基づき、結果を急がず、高齢者の決断のプロセスを尊重することが、より良い結果につながる可能性があります。焦らず、ゆっくりと話し合う時間を設けることで、高齢者も自分のペースで考えを整理できます。

さらに、高齢者の自己決定権を尊重することが大切です。和田秀樹氏は「自己決定の重要性」を強調しています。最終的な決定権は高齢者にあることを認識し、尊重する姿勢が必要です。「最終的にはあなたが決めることだけど、私たちも一緒に考えたいな」と伝えることで、支援する姿勢を示せます。

最後に、高齢者の変化を肯定的に捉えることが重要です。萩原礼紀氏は「変化への適応力」の重要性を指摘しています。高齢者の小さな変化や努力を肯定的に捉え、励ますことで、より良い関係性を築くことができます。小さな変化や努力を見逃さず、「〇〇できるようになったね」と具体的に褒めることで、高齢者の自信につながります。

まとめ

「高齢になると頑固になる」という話をよく耳にします。和田秀樹氏は、これを「認知症の症状の一環」として捉える見方もあると指摘しています。高齢ドライバーが若い頃は、いろいろなライフイベントという名の一種の「刺激」があり、その都度悩み、苦しみ、そして喜びや楽しさを味わってきたと思います。しかし、高齢になるとそういったイベント機会が減少して刺激が少なくなり、喜怒哀楽を表現する機会が少なくなっていることも症状進行の一因のように感じます。

そんなときに、世間ではネガティブに考えられがちな「免許返納問題」は、考え方を180度変えれば、家族が真剣に話し合うために神様が与えた、千載一遇のチャンス(刺激)として捉えることができるのではないでしょうか。この問題を機に冷え込んだ家族関係を改善することで、以前よりも家族の関係をより強固なものにできるかもしれません。まさに「雨降って地固まる」「苦難は人を団結させる」「嵐の後には虹が出る」と言えるのではないでしょうか。畑村洋太郎氏は「失敗を恐れずチャレンジすることの重要性」を説いていますが、免許返納の問題もまた、家族の絆を再確認し、昔のように会話や笑い声が絶えない関係を取り戻すチャンスと考えることができるでしょう。

萩原礼紀氏が提唱する「ポジティブ思考」を積極的に取り入れ、この問題を一つのイベントとして楽しむという姿勢、マインドチェンジをすることで、より前向きな議論ができるのではないかと思います。時間をかけすぎずに、しかし丁寧に向き合うことで、免許返納問題が家族の絆をより一層深める貴重な機会となるかもしれません。

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